■耐性アシネトバクター Acinetobacter |
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■はじめに |
好気性グラム陰性短桿菌のブドウ糖非発酵菌で、通常は弱毒である。 環境や土壌に広く生息し、病院内の環境(人工呼吸器、人工透析、空調システム、床、ベッドのマットレスなど)、家庭の洗面台など湿潤な室内環境からも検出される。 健常人の皮膚、特に湿った部位である腋窩や会陰部などに常在している。 Acinetobacter属には20種類以上の種が含まれ、Acinetobacter baumanniiが約70%を占める。 カルバペネム薬、アミノグリコシド薬、フルオロキノロン薬の3系統に耐性を獲得したものを多剤耐性アシネトバクター(MDRA)と呼ぶ。 |
■臨床では |
重篤で侵襲的処置を行っている患者の敗血症、人工呼吸器関連肺炎、尿路感染症などで問題になることがある。(日和見感染症) これまで人工呼吸器の加湿器・バイトブロック・吸引カテーテル等の呼吸器関連器材によるものや手術室・集中治療室・救急病棟の環境汚染によるアウトブレイクの報告がある。当院ではICUを中心に2016年から2018年にかけて、15名の患者からMDRAを含むIMP-1陽性A.baumanniiが検出されるアウトブレイクを経験した。 |
■耐性菌が検出されたら |
アミノグリコシド系・カルバペネム系・ニューキノロン系に耐性をしめすアシネトバクターに対しては原則個室への隔離を行い、接触予防策をとる。これら耐性菌が検出されたら、細菌検査室はICTメーリングリストで連絡する。 主治医は症状や所見から感染症が疑われ、下表の検査方法により多剤耐性アシネトバクター感染症患者と診断した場合、5類感染症として7日以内に保健所に届出を行う。 【検査室での判断基準】 以下の3つの条件を全て満たした場合 ·
イミペネムのMIC≧16μg/ml(他のカルバペネム薬に耐性の場合も含む)又はイミペネムの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が13mm以下 ·
アミカシンのMIC≧32μg/ml又はアミカシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が14mm以下 ·
シプロフロキサシンのMIC≧4μg/ml(他のフルオロキノロン薬に耐性の場合も含む)又は、シプロフロキサシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が15mm以下 |
■拡散と感染の防止 |
日常的な予防策 1. 感染・保菌患者の個別(個室)管理もしくはコホーティング 2. 標準+接触予防策の正しい実施、吸引・陰部清拭・尿路カテーテル処置時の接触予防策の徹底 3. 不必要な蓄尿の中止 4. カルバペネム系薬など広域抗菌薬の適正使用 カルバペネム系・ゾシン・ニューキノロン系などの広域抗菌薬の長期使用を避ける。 早期検出のため、14日以上広域抗菌薬使用時には、2週間に1回程度の頻度で尿または便による監視培養を行う。 5.
湿潤な環境(病棟内の水まわり、汚物処理室など)の衛生管理。2系統以上の耐性アシネトバクター検出例の場合、病室内手洗い場の排水口は、1日2回0.1%次亜塩素酸ナトリウムで30分間消毒する。 6.
医療器具の洗浄・消毒および乾燥の徹底 7. 保菌者に対しては抗菌薬による除菌はおこなわない 検出事例での対応 接触予防策チェックリスト 1. 感染・保菌患者の個別(個室)管理もしくはコホーティングを行う。耐性アシネトバクター検出例の接触予防策は厳密に行い、入退室時の手指衛生は厳守し、病室入室時には常に長袖ガウン・手袋を使用する。 2. 原則検出患者のみを担当するスタッフで対応し(スタッフコホーティング)、特にICUやアウトブレイク発生時においては厳守する。 3. 患者周囲の環境清掃は原則として塩素系消毒薬を用いる。退室または退院する場合、業者によるターミナルクリーニングを依頼する。 4. 多剤耐性アシネトバクター(MDRA)を1例でも検出した場合はアウトブレイクに準じ対応する。複数患者での検出が確認された場合は、手指衛生等通常の感染対策実施状況の確認に加え、病棟内他患者の保菌スクリーニングやリザーバー探索のための環境検査の実施、病室の徹底的なクリーニングを実施する。環境検査で陽性になった病室・物品については耐性アシネトバクターの陰性化が確認できるまで使用しない。 |