バンコマイシン耐性腸球菌(VRE

バンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin Resistant Enterococci, VRE)は、ほとんどの薬剤に耐性であり、感染症が起きた場合には治療が困難になる。ハイリスク患者には伝播が起こりやすいため注意が必要である。平成9年に当院でも数名の患者から検出され問題となった。

腸球菌のバンコマイシン感受性結果の判定基準

バンコマイシン(VCM)に対するMIC 4μg/ml 以下:感性、8μg/ml:判定保留、16μg/ml 以上:耐性

バンコマイシン使用時の注意

1)    VCM投与時には血中濃度モニタリング (therapeutic drug monitoring, TDM) を行い、適切な血中濃度で治療が行われているか確認する。

2)    VRE早期検出のため、VCM使用時には、2週間に1回程度の頻度で便培養を行う。「監視培養」タブから、「VRE監視培養」を選択し依頼する。

上記の注意はテイコプラニン(TEIC)使用時にも適用する。

VREの分類

グリコペプチド薬耐性は3種類の耐性遺伝子により感受性パターンが異なる(表1)。vanA型は、VCMTEICに高度な耐性を示す。vanB型は、VCMに中等度から高度耐性を示すが、TEICには感受性である。vanC保有株はVCMに軽度の耐性を示すが、TEICには感受性である。vanAvanB遺伝子はトランスポゾンなどにより接合伝達で菌体間を伝播するが、vanC遺伝子は伝播しない。vanDの報告もみられる。

表1 VREの種類と特徴

クラス

遺伝子

遺伝子の所在

遺伝子の伝播

MIC (μg/ml)

菌種

VCM

TEIC

A

vanA

plasmid

あり

64≤

16≤

E. faecalis

E. faecium

B

vanB

主に染色体、まれにplasmid

あり

16~64

≤1

E. faecalis

E. faecium

E. gallinarum

C

vanC

染色体

なし

4~32

≤1

E. gallinarum

E. casseliflavus

E. flavescens

D

vanD

染色体?

あり?

64

4

E. faecium

(感染症発生動向2002年第16週号 感染症の話 表1より引用)

予防

1.      連絡

VREが検出されたら、細菌検査室はICTメーリングリストで連絡する。また主治医は病棟医長、病棟師長、感染制御部と相談の上、患者を個室隔離し、接触予防策をとる。

また転院元からVRE検出情報があった場合は、感染制御部に緊急報告を行う。

 

2.      病室

1)     個室隔離とする。トイレ付き個室が望ましい。

2)     病室内に、感染性廃棄物容器を設置する。

3)     入室時には、患者への接触の有無にかかわらず、必ず手指衛生と手袋着用を行う。

4)     処置・検査・リハビリはできる限り部屋内で実施する。また、部屋外で検査等を行う場合には、実施部局への連絡を必ず行う。

5)     体温計、血圧計、聴診器、駆血帯、血糖測定器、アルコール綿などの消毒薬、創処置に使用する最低限の衛生材料等は専用とする。

6)     退室時は室内で手袋等の防護用具を廃棄後、手指衛生を行う。

 

3.      診療・ケア時の対応

1)        診療・ケアする医師や看護師はできるかぎり固定する。

2)        職員の衣服は、手洗いをしやすいように半袖とし、腕時計類は外す。

3)        入室する前に、手指衛生を行い、手袋を着用する。

4)        汚染物にさわった後は、手袋を交換する。

5)        患者に職員の体が接触する、あるいは体液(血液・排泄物・吐瀉物・喀痰・唾液等)が衣服に飛び散るおそれのある処置をする場合は長袖ガウンを着用する。(長袖ガウンは手袋より前に着用する。着用時すでに手袋を装着している場合には一旦手袋を外し、手指衛生の上長袖ガウンを着用し、清潔な手袋を着用する。1回使用毎に廃棄する。点滴更新や配膳のみなど袖や腕が患者や患者環境に触れないことが明らかである場合には長袖ガウンではなくエプロンでも可)

6)        処置により環境を汚染するおそれがある場合は、使い捨てシートで患者周辺をカバーし、汚染を最低限にする。

7)        オムツ交換は周囲や自身を汚染しないように配慮する。

8)        患者の診療や処置はできる限り最後に行う。

9)        退室時には手袋およびガウン・エプロンを室内で廃棄し、手指衛生を行う。蓄尿は原則行わない。

10)     患者に使用した物品を中央材料部へ返却するため室外に持ち出す際は、周囲を汚染しないようビニール袋に入れて運搬するなど配慮する。汚染器具を保管するコンテナから汚染が拡大しないよう、コンテナの蓋は常時閉めておく。環境を汚染した可能性がある場合はアルコールクロスで清拭する。

11)     排液は室内で行う。トイレ付個室の場合は室内トイレへ廃棄し、そうでない場合は測定後、固形化剤入り使い捨て排泄用具(クリーンベントール®やケアメイト®等)やビニール袋と固形化剤(リセプタル®等)を使用し、固めて部屋の感染性廃棄物容器に廃棄する。目分量で測定が可能な場合は目盛り付きの紙コップで測定し、厳密な測定が必要な場合は、計量器の個別化を検討する。

 

4.      環境整備

1)     室内の手の触れる環境(ドアノブ、床頭台、ベッドの手すり、各種スイッチ類、血圧計、体温計、聴診器等)は消毒用アルコールで最低2/日は清拭する。

2)     機器の消毒には、性能に影響しない消毒薬を用いる(パソコンのキーボードなどはセーフキープ®などの環境クロスで二度拭きする)。

3)     移送に使用したストレッチャーや車いすは、使用後に消毒用アルコールで清拭する。

4)     尿器・便器・ポータブルトイレは専用としベッドパンウォッシャーで洗浄する。患者退院後は、洗浄後に0.1%次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。

5)     吸引チューブは、1回毎に使い捨てとする。

 

5.      リネン・下着類

1)     病室から出された使用済みリネンは感染性リネンとして取り扱う。

2)     使用済みリネンは青色のビニール袋等に入れて、感染物であることが判るように表示する。

3)     便、尿、吐物などで汚染のあるものは取り除き、黄色のビニール袋に入れて提出する。

4)     患者の下着などの私物はビニール袋などに入れて周囲を汚染しないよう家族に持ち帰ってもらい、洗剤を使用した洗濯を行う。

 

6.      食事・入浴等

1)     経腸栄養は、パックとカテーテルチップを個人専用とする。使用後は十分洗浄し、0.01%次亜塩素酸ナトリウム消毒を行い、乾燥させる(ミルトン®を使用する場合は使用まで浸漬し、使用時に取り出し、そのまま使用してよい)。汚染時や一週間に一回程度新しいものと交換する。

2)     食器類の消毒は必要ない。

3)     入浴の順番は最後とし、失禁や下痢があればシャワー浴とする。使用後は患者の触れた部位や使用した椅子を中心に0.05%次亜塩素酸ナトリウム消毒を行う。

 

7.      患者・家族の面会等指導

1)     面会や付き添いは必要最小限とする。

2)     面会場所は病室内とする。

3)     面会・付き添い者には、入退室時の手指衛生を指導する(手袋・エプロン・マスクは必要ない)。

治療

 VRE感染症の治療薬であるリネゾリドは、菌のリボゾームに結合し蛋白合成の開始を阻害し静菌的に働く。リネゾリド耐性株もすでに出現しており,適正使用に注意が必要である。

届出

VRE感染症は五類感染症全数把握疾患に定められており、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出る(届出票)。血液、腹水、胸水、髄液など通常は無菌的であるべき臨床検体から分離された症例が対象となる。