TDMが必要な薬剤(抗MRSA薬以外)

TDMの検体提出はThinkの血液検査・血中濃度から。お電話によるお問い合わせは8811へ。

 

アミノグリコシド系

1.血中濃度測定の意義

アミカシン(AMK)およびゲンタマイシン(GM)などアミノグリコシド系薬は濃度依存的な作用を示す抗菌薬で、点滴静注終了後血液-組織間濃度が平衡状態となった時の濃度であるピーク血中濃度(Cpeak)を一定水準以上に高めること、すなわち1回の投与量を多くして、Cpeakと最小発育阻止濃度(MIC)との比(Cpeak/MIC810)を大きくすることが有効性を確保するためには重要である。

またアミノグリコシド系薬は、PAEPost-antibiotic Effect)をもつために、トラフ濃度はMIC以上に保つ必要はなく、むしろ副作用を回避するためにできる限り下げることが望ましいとされている。したがって、アミノグリコシド系薬の有効性及び安全性を確認するためには薬物血中濃度モニタリング(TDM)が必要とされている。

 

2. 薬物血中濃度測定、治療濃度ならびに用法・用量

(1) 薬物血中濃度測定

GM(院内薬剤部で測定)】

初回は有効性の評価のためピーク値(Cpeak)として、投与開始24日目の点滴開始1時間後(30分で投与した場合は、終了30分後)に採血する。2回目以降は安全性(腎・耳毒性発現)の評価のため、トラフ値、つまり、投与前30分以内に採血する。

尚、測定日が休日の場合、あらかじめ薬剤部へ相談する。薬物血中濃度測定依頼書と、生化用スピッツ(ピンクまたはゴム茶のシール)に2mL以上採血して、薬剤部1階の薬物血中濃度測定室へ提出する。薬物血中濃度測定依頼書には、薬物動態解析による投与設計に必要な採血時間、採血する前の投与開始時間および点滴時間は必ず記載する。

AMK(外注検査での測定⇒薬剤部での投与設計後報告)】

  Think→オーダー入力画面検査外注→薬物検査の順に選択する。アミカシンを選択、フリーコメントに採血時間を入力のうえオーダーし、薬剤部(PHS 8811)へ連絡する。

外注検査では平日採血で早くても翌日、金曜日採血では月曜日と結果報告までに時間を要するため、初回は可能な限りピーク値とトラフ値の2点採血とし、生化用プレイン(分離剤なし)スピッツ2mL以上採血して、臨床検査部外注検査室へ提出する。尚、測定日が休日の場合は、外注検査室(内線6962)へ相談する。

 

(2)治療濃度

 各アミノグリコシド系薬の目標Cpeakと血中トラフ濃度を以下に示す。

 

抗菌薬

C peak

トラフ値

一般的感染症

AMK

56 64μg/mL

1μg/mL

GM/(TOB)

20 ( 15 25μg/mL)

1μg/mL

細菌性心内膜炎

GM

3 5μg/mL

1μg/mL

      副作用:腎障害、聴力障害

 

() 用法・用量

AMKの添付文書には、「通常、成人では1100200mgを、12回筋肉内注射または点滴静注する。小児では148mg/kgとし、12回筋肉内注射または点滴静注する。また、新生児(未熟児を含む)では、16mg/kgを、12回点滴静注する。」と記載されている。

GMの添付文書には、「通常,成人では180120mg23回に分割して筋肉内注射または点滴静注する。小児では10.40.8mg/kg123回筋肉内注射する。」と記載されている。

 

しかしながら成人患者において、上記用量通りに投与しても有効血中濃度を得ることはほとんどできない。従って、添付文書よりも高用量での投与が必要となる。抗菌薬TDMガイドライン(日本化学療法学会/日本TDM学会作成)より、初期投与量としては以下の用量が推奨されている。

   @ AMK;1回15mg/kg24時間毎に投与する。

   A GMTOB);1回57mg/kg24時間毎に投与する。

   B GM(感染性心内膜炎);1mg/kg12時間毎または8時間毎に投与する。

 

3. 参考

AMKおよびGMの用法・用量について、海外ではPK/PD理論に基づいて11回大量投与が推奨されており、サンフォード感染症治療ガイドには下表のように記載されている。

 

Ccr

>80

6080

4060

3040

2030

1020

010

AMK

15 mg/kg

24hr毎)

12 mg/kg

24hr毎)

7.5 mg/kg

24hr毎)

4 mg/kg

24hr毎)

7.5 mg/kg

48hr毎)

4 mg/kg

48hr毎)

3mg/kg72hr毎または透析後)

GM

5.1 mg/kg

24hr毎)

4 mg/kg

24hr毎)

3.5 mg/kg

24hr毎)

2.5 mg/kg

24hr毎)

4 mg/kg

48hr毎)

3 mg/kg

48hr毎)

2mg/kg72hr毎または透析後)

Ccr:クレアチニンクリアランス(mL/min

ボリコナゾール

1.       血中濃度測定の意義

ボリコナゾールは主な副作用として視力障害および肝機能障害がある。視力障害は一過性であまり問題にならないが、肝機能障害は検査値異常だけを示す無症候性のものから重篤な(死亡例あり)ものまでみられる。添付文書に、「外国人患者において、ボリコナゾールの血中濃度と肝機能検査値異常発現率の間に統計的に有意な関連性が認められた。日本人健康成人においては、肝機能障害が発生した症例で、かつ、血中濃度が測定されていた症例の血中濃度トラフ値はいずれも4.5μg/mL以上であった。」と記載されている。一方、有効性はトラフ値を2μg/mL以上にするべきであるといった報告があり、ボリコナゾールの有効性及び安全性を確認するためには薬物血中濃度モニタリング(TDM)が必要とされている。

 

2.       薬物血中濃度測定、治療濃度ならびに用法・用量

(1) 薬物血中濃度測定

ボリコナゾールは投与開始47日目の投与前に採血する。また、測定日が休日の場合、あらかじめ薬剤部へ相談すること。薬物血中濃度測定依頼書と、生化学用スピッツ(ピンクのシール)に3mL以上採血して、薬剤部1階の薬物血中濃度測定室へ提出する。薬物血中濃度測定依頼書には、薬物動態解析による投与設計に必要な採血時間、採血する前の投与時間は必ず記載する。

 

(2) 治療濃度

  トラフ値(投与直前) 15μg/mL

   *有効性の面から、≧12μg/mL、安全性の面から≦45μg/mLが推奨される。

     副作用:肝障害

 

(3) 用法・用量

添付文書では、「通常、成人にはボリコナゾールとして初日は16mg/kg12回、2日目以降は13mg/kg又は14mg/kg12回投与する。」とされている。

 

3. 参考

ボリコナゾールは主にCYP2C19により代謝される。CYP2C19には遺伝子多型が存在するため、遺伝子のタイプにより血中濃度が大幅に異なる。CYP2C19 non-wild (mutant) type は欧米人では2030%だけだが、日本人では6070%存在する。インタビューフォームに「肝・胆道系の副作用は、国内第V相試験で36.0%、外国患者安全性解析対象集団で12.2%に認められている。」と記載があり、多くの日本人ではCYP2C19mutantになっているため、ボリコナゾールの代謝が遅延することにより血中濃度が上昇し、肝機能障害が欧米人の3倍の頻度で発現したことが推測される。添付文書の用法用量は欧米と同じであるため、mutantが多い日本人では重篤な感染症でない限り、2日目以降は13mg/kgで開始することを推奨する。

 小児や高齢者、腎機能が低下している患者など、投与量設定が難しい場合は、薬剤部(内線8811)まで連絡してもらえば、相談の上投与量および採血タイミングを決定できる。