■抗MRSA薬の適正使用とTDM |
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TDMの検体提出はThinkの血液検査・血中濃度から。電話による問い合わせは8811へ。 |
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参考資料:日本感染症学会/日本化学療法学会 MRSA感染症の治療ガイドライン |
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■抗MRSA薬の使用にあたって |
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MRSAが検出された際は、感染症か、保菌かを区別することが重要である。原則として保菌状態に抗菌薬を使用してはならず、感染症の場合にのみ抗MRSA薬を投与する。他の薬剤に感受性がある場合にはその薬剤を含めて考慮する。さらに、MRSAを想定して、抗MRSA薬を使用している際に、起炎菌がMSSAと判明した場合は、セファゾリンを使用する(髄膜炎以外)。MSSA菌血症に対する臨床効果を比較した試験において、セファゾリンはバンコマイシンに比べ、有意に治療の失敗、死亡率、再発率が少ないことが報告されている。また、菌の耐性化を極力回避し、有効かつ副作用を生じない投与量及び投与方法で必要最小限に止めるためには薬物血中濃度モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring: TDM)が重要である。 TDMには2つの意義がある。1つは菌を減少させるのに有効な濃度に達しているかを確認すること(offensive TDM)。もう1つは副作用を招くような濃度で推移してないかを確認すること(defensive TDM)である。 また、当院では、抗MRSA薬が使用された場合は各担当の抗菌薬適正使用支援チーム(AST)メンバーが使用された患者の背景・使用状況などについてチェックすることとなっている。 基本指針 1)
バンコマイシン、テイコプラニン及びアルベカシンを投与する場合は必ず血中濃度測定を行い、至適濃度の得られた条件下で効果判定を行う。 2)
バンコマイシン、テイコプラニン及びアルベカシンの投与で、至適血中濃度が得られているにもかかわらず効果が得られない場合、又は何らかの理由によりその薬剤の継続投与が困難な場合は、他方の薬剤の投与を考慮する。 3)
抗MRSA薬の投与患者、投与量、投与期間については、処方データベースによりそれをモニターし、毎月ICT会議へ報告し、同会議でその適正使用を監視する。 |
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■抗MRSA薬の特徴 |
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a. 塩酸バンコマイシン(VCM) グリコペプチド系の殺菌的に作用する抗MRSA薬で、豊富な実績があり且つ各臓器への移行性も良好である。髄液へ移行するのは本薬剤とリネゾリドのみである(ただし移行性は高くはない)。腎機能障害者への投与は慎重に行う必要があるが、しっかりしたTDMを行えば投与は十分可能である。筋肉など皮下組織への移行はテイコプラニン、リネゾリドに劣る。腎障害、聴神経障害の可能性が高くなるため、アミノグリコシド系薬との併用は避ける。また、急速なワンショット静注や短時間での点滴静注を行うと、ヒスタミン放出による投与時関連反応(顔・首・上肢のピリピリ感や紅潮が特徴)や血圧低下等の副作用が発現することがあるので、点滴時間は1時間を超える必要があり、1gを超える場合は500mgあたり30分以上を目安に点滴時間を延長する。 ※ バンコマイシン投与中または投与終了後に投与時関連反応が出現した場合は、原則下記の対応を考慮する。 @
バンコマイシンの点滴を直ちに中止し、発疹と掻痒感が消失したら点滴速度を遅くし再開する。必要時は抗ヒスタミン薬投与も考慮する。 A
次回投与は初回投与よりもさらに30分以上点滴時間を延長する。 B
再投与でも再度同様の症状が出現した場合に、他の抗MRSA薬への変更を検討する。また、アレルギーが強く疑われる場合は、患者基本情報 → 薬剤禁忌情報から個別登録を行う。
C
再投与しない場合またはアレルギーが強く疑われない場合は、『個別薬剤登録できませんした』をチェックのうえ、その他にコメントで投与時関連反応出現歴があることを記載する。
b. テイコプラニン(TEIC) グリコペプチド系の殺菌的に作用する抗MRSA薬で、心臓・肺組織・骨への移行が良好である。特に筋肉など皮下組織への移行はリネゾリドと並んで高い。ただし髄液への移行は良くない。一般に血液透析で除去されないのでしっかりしたTDMは必須である。VCMとTEICの効果および安全性に関するメタ解析によると、治療効果はほぼ同等であるが、TEICの方が有意に腎障害、ヒスタミン放出による投与時関連反応の発現率が低いことが示されている。一方、肝障害についてはTEICの方が発現しやすい傾向にある。 c. 硫酸アルベカシン(ABK) アミノグリコシド系の殺菌的に作用する抗MRSA薬で、唯一グラム陰性菌にも効果があり、他の抗MRSA薬との交差耐性が少ない。胸水・腹水・心嚢液・滑膜液への移行は良好であるが髄液・皮下組織・骨への移行は良くない。神経筋接合部に作用するので重症筋無力症患者では慎重投与。 d. リネゾリド(LZD) オキサゾリジノン系の抗MRSA・抗VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)薬で、抗MRSA薬の中では唯一静菌的に作用し他の抗MRSA薬と交差耐性が少ない。保険適応があるのはMRSA感染症及びVRE感染症のみである。筋肉などの皮下組織・骨・肺への移行が特に良好である。また、体重40kg未満、授乳婦などでは慎重に投与する必要がある。とくに副作用としては骨髄抑制(血小板減少など)に注意が必要である。本薬剤とキヌプリスチン・ダルホプリスチンだけが、国内で承認された抗VRE薬であるため、その使用に当たっては、しっかりした根拠が必要である。 血小板減少は添付文書では14日を越えて投与される場合には注意が必要とされている。さらに、腎機能障害患者では腎機能正常患者に比べ、LZD投与により有意に血小板を減少させることが報告されている。腎機能障害患者に投与する際は、血小板減少のリスクが高くなることを考慮する必要がある。 e. テジゾリド(TZD) 皮膚軟部組織感染に適用を有する第 2 世代のオキサゾリジノン系である。プロドラッグであるテジゾリドリン酸エステルは投与後急速に脱リン酸化され,94.5〜98.2%が抗菌活性を有する TZD に変換され静菌的作用を示す。その効果はAUC/MIC に相関し、経口、注射ともに 1日 1回200 mg 投与となっている。タンパク結合率は約 80%と LZD に比べて高く、皮下脂肪組織や骨格筋組織など組織移行性は良好である。 また、TZD
は骨髄抑制として血小板減少症の発現頻度がLZDに比べ低いと考えられ、主な副作用として,肝逸脱酵素上昇、注射部位紅斑などが報告されている。 f. ダプトマイシン(DAP) 環状リポペプチド系の殺菌的に作用する抗MRSA薬であり、敗血症、感染性心内膜炎、皮膚軟部組織感染症に使用される。一方、肺サーファクタントに結合し、不活化されるため肺炎には使用しない。濃度依存的に効果を示す薬剤であり1日1回投与が推奨されるが、腎排泄型の薬剤であるためクレアチニンクリアランスが30 mL/min未満の場合は、2日に1回投与する。また、1日2回以上投与した場合、血中クレアチンキナーゼ(CK)値の上昇が認められ、さらに、トラフ濃度が24.3 μg/mL以上でCK上昇が示されているので、DAP投与中は週1回程度の定期的なCK値の確認が必要である。 |
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■治療濃度,用法,用量 |
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(1) バンコマイシン(VCM) @ 治療濃度 AUC 400〜600 µg・h/mL (従来用いてきたトラフ値はAUCの代替指標とはいえない) 副作用:腎障害、投与時関連反応 A 用法・用量 【成人】初回のみ25〜30 mg/kg(実測体重)を負荷投与とし、以降は維持量として腎機能正常例(eGFR≧90mL/min/1.73m2)では1回20 mg/kg(実測体重)を12時間毎に投与する。下表は抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022(日本化学療法学会/日本TDM学会)で提唱されたノモグラムであり、AUC 24-48h 400〜500µg・h/mLを狙った投与スケジュールとなっており、体重、クレアチニンクリアランス(体表面積未補正eGFR(mL/min)またはCG式)を基に初回負荷量と1日維持量を決定する。正確に初期投与設計をしたい場合は薬剤部(内線8811)に相談する。 一方、MRSA感染症の有効性を高めるためにはAUC/MIC≧400µg・h/mLが必要とされ、VCMのMICが2 μg/mLの株ではAUC/MICに基づいた維持量の設計では腎障害のリスクを伴い、継続投与するか他剤へ変更するか臨床的判断を行う。MIC=4の株では他の抗MRSA薬を選択する。
表1 成人における初期投与量の目安 ★
腎機能評価時の注意
☞ 筋肉量低下を伴う高齢、るい痩、長期臥床の方では血清シスタチンCでの評価を推奨する。 ☞
過体重、肥満の方では補正体重などを用いたクレアチニンクリアランスでの腎機能評価を行う。 その他の特殊病態における初期投与量は下記を参考とする。 n
肥満患者(>100kg);初回20-25 mg/kg(実測体重;3gを上限) 腎機能正常(>100mL/min)の場合、以降は10-15mg/kg(4g/日を上限)を12時間毎 n
持続的血液ろ過透析(CHDF);初日20-30mg/kg(実測体重)、以降は7.5-10mg/kgを24時間毎 n
血液透析(HD);初日 25-30mg/kg(ドライウエイト)、以降はHD日に7.5-10mg/kgを透析後投与 n
腹膜透析(PD);無尿の患者では持続投与の場合、初回30mg/kg、以降は1.5mg/kg/bag、間歇投与の場合は15-30mg/kgを5-7日毎に腹腔内投与(無尿でない患者には25%の増量を考慮する。) 【小児】腎機能正常患児においては、『1回15 mg/kgを6時間毎(60 mg/kg/日)』を基本とし、週齢・年齢によって右表を参考に初期投与量を決定する。ただし、腎機能低下患者では減量を考慮する必要があり、2日目のTDMでは定常状態に達していないことがあるためトラフ値過小評価の可能性を考慮する。 表2 小児における初期投与量の目安
(2) テイコプラニン(TEIC) @ 治療濃度 トラフ値 15〜30 μg/mL(複雑性感染症では20〜40 μg/mLを考慮) 副作用:肝障害 A 用法・用量 テイコプラニンは添付文書通りに投与しても有効血中濃度を得ることはほとんどできない。そのため投与早期から有効血中濃度を得るために、投与3日間は下記の初期投与量での開始が推奨される。 【成人】1回12mg/kgで12時間毎に3回投与し、3日目に最終投与から18時間以上経過後の血中濃度を確認し維持量を決定する。腎機能正常患者 (eGFR ≧60 mL/min/1.73 m2)において複雑性感染症(心内膜炎,骨関節感染症など)や重症感染例ではトラフ値20-40 μg/mLを目標に1、2日目は1回12mg/kgを12時間毎に5 回投与を考慮し、4日投与前(最終投与から18時間以上経過後)の血中濃度を確認し維持量を決定する。テイコプラニンは腎排泄型薬剤であるため維持量は腎機能に応じて減量する必要があり、eGFR<30 mL/min/1.73m2の腎機能低下患者では3日目以降は6.7mg/kg/回への減量を考慮する。 【小児】1 回10 mg/kgを12時間毎に3回投与し,その後は1回10mg/kgを24 時間毎とし、TDMで調整する。ただし腎機能正常の重症感染症症例では幼児で1回18mg/s,小児で1回14mg/s,青年で1回12mg/kgへの増量を考慮する。一方、腎機能が未発達な新生児においては1回8mg/sを12時間毎に2回投与し,その後は1回8mg/sを24時間毎としTDMで維持量を調整する。。 (3) アルベカシン(ABK)(ハベカシン®) @ 治療濃度 ピーク値 ≧15 μg/mL トラフ値 <1〜2 μg/mL 副作用:腎障害、聴力障害 A 用法・用量 アルベカシンのPK-PDパラメータはCpeak/MICが≧8-10で有効とされており、目標ピーク濃度(Cpeak)≧15 μg/mLが必要である。初期投与量として腎機能正常患者(eGFR>60 mL/min/1.73m2)では5〜6 mg/kg(小児で4-6 mg/kg)を24時間毎(30分かけて投与)での開始を考慮する。理想体重から≧20%を超える症例では、補正体重(=理想体重+[0.4×(実測体重−理想体重)])を用いる。アルベカシンは腎排泄薬剤であるため、腎機能に応じて1 回投与量の減量および投与間隔の延長を行う。ただし,投与間隔の延長は48 時間を上限とし、2日以上間隔をあけないと投与できない場合は効果が期待できず、腎障害のある患者への投与は推奨されない。 |
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■血中濃度測定 |
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(1)測定依頼方法 @THINK→オーダ指示画面→検査の順に選択する。 【VCM/TEIC(院内薬剤部で測定・解析)】 薬物血中から測定対象薬物を選択し、出力された薬物血中濃度測定・解析依頼書(依頼書の再発行は帳票出力から行う)に正確に最終投与時間と採血時間を記載する。 【ABK(外注検査で測定・薬剤部で解析)】
外注→薬物検査からアルベカシンを選択し、フリーコメントに採血時間を入力のうえオーダし、薬剤部血中濃度測定室(PHS 8811)へ連絡する。 A依頼書発行と同時に、日付、採血管、診療科、氏名、薬物名の入ったシールが出力される。そのシールを採血管に貼付し、患者から全血で2mL、小児の場合は小児用のスピッツに1mL採血する。採血管は生化用スピッツ【VCM/TEIC(院内)はゴム茶のフタ、ABK(外注)はプレイン・分離剤なし】を用いる。 B依頼書と採血管をVCM/TEICは薬剤部、ABKは外注検査室にメッセンジャー便で送付するか、もしくは直接提出する。 ABK;外注検査 生化用(分離剤なし)
VCM・TEIC;院内検査 生化用(ゴム茶) (2)初回の血中濃度測定のタイミング VCM、ABKは投与開始2〜3日目(ただしVCMは成人で初日2回投与の場合、2日目でも測定可) TEICは投与開始3〜4日目以降に採血、測定を行う。 (測定日が休日の場合,あらかじめ薬剤部へ相談する。)
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(3) 血中濃度測定の診療報酬,算定点数 (令和2年4月改訂)特定薬剤治療管理料
470点 月に1回算定できる。 同一暦月に血中濃度を複数回測定し、その測定結果に基づき投与量を精密に管理した場合は 初回月のみバンコマイシンは570点、上記に該当しない場合は280点が所定点数に加算される。 |
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■血中濃度測定を依頼する際の注意点 |
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(1) 投与時間、採血時間を正確に記入すること。 (2) 投与量、投与間隔、点滴時間を記入すること。もし透析ならびに腹膜灌流を施行している時はその旨も記入すること。 (3) 血中濃度の結果に基づき評価し、薬剤の血中濃度、治療計画の要点を診療録に記載する。
医師は【測定・解析結果を受けての治療計画】として、@対象疾患名、A目標濃度、B治療方針 C診療内容にチェックあるいは入力して下さい。 (特に赤字は必須入力) |