B.4 敗血症 sepsis

1.  敗血症の定義

新しい敗血症(sepsis)定義(表)が20162月、「3回目の国際的な合意による敗血症と敗血症性ショックの定義(Sepsis-3)」として発表され、2段階に分類された。従来定義では「感染に起因するSIRS」である敗血症sepsisに加えて、「臓器障害を伴うsepsis」を重症敗血症(severe sepsis)、さらに「ショックを伴うsepsis」を敗血症性ショック(septic shock)と3段階に重症度が分類されていた。ICUでの治療が必要な病態かどうかを判断したい場合に、SIRSの概念は広すぎ、オーバートリアージを生んでいたこと、またSIRSの診断基準を満たさない重症敗血症患者が少なからず存在することが報告され、 SIRSを条件にしていては見逃しが起こる可能性も指摘されていたことから定義の見直しがなされた。

2004年に世界で初めてのsepsis診療に関するガイドラインとして敗血症治療ガイドライン{Surviving Sepsis Campaign Guideline (SSCG)}が発表され、2008年に2回目、2012年に3回目、さらに2017年に4回目の改定がなされた。一方、本邦では2012年に日本集中治療医学会が日本版敗血症診療ガイドラインを策定し、その後2016年に、日本救急医学会と合同で2回目の改定がなされた。

 

(表)敗血症の新しい定義

病態分類

定義

診断基準

敗血症

感染に対する制御不十分な生体反応に起因する、生命に危機を及ぼす臓器障害

SOFAスコアの合計で2ポイント以上の上昇

敗血症性ショック

敗血症のサブセットで、循環や細胞機能、代謝の異常により死亡率を増加させるに足る状態

適切な輸液負荷にも拘わらず平均血圧65 mmHgを維持するのに昇圧薬が必要、かつ血中乳酸値2 mmol/Lを呈する状態

 

また、Sepsis-3では、ICU以外の部門で高死亡リスクの患者をスクリーニングするためにSIRS基準に代わってqSOFAを使用することが推奨されている。ICUで使用するSOFAと違い、きわめて簡単に診断することが出来る。診断のフローチャートを示す(図)。

2.  SOFA スコア集中治療室(ICU)などで重症管理を受けている患者に適用する場合

3.  qSOFA スコア ICU外(病院前救護、救急外来、一般病棟)の患者に適用する場合

 

織田成人:敗血症の新しい定義とその背景.日本内科学会雑誌,2017から引用

 

ここでは2016年日本版敗血症診療ガイドラインを参考に抗菌薬治療を概説する。ただし、本ガイドラインは敗血症診療に特化したガイドラインという性質上、抗菌薬の各論には言及していないが、敗血症における抗菌薬選択も、原則は一般的な感染症診療と同様である。すなわち、患者背景、疑わしい感染臓器、地域や施設の疫学情報、最近の抗菌薬使用歴などから、可能な限り具体的な微生物や薬剤耐性を想定したうえで選択する。ただし、非重症患者の場合に比べて、原因微生物に対して有効な抗菌薬を速やかに投与することが重要である。つまり敗血症の定義を理解し、いかに素早くスクリーニングを行い、そして早期に集中治療を開始するかが重要である。

 

4.  敗血症における感染の診断

感染巣を早急に検索する。 臨床経過や理学所見,血液検査,尿検査,画像診断などで感染巣を検索する。

抗菌薬投与前に血液培養および感染巣として推定される臓器由来の検体(尿・髄液・気道分泌物・創部・体腔液など)を採取し,細菌培養を行うとともに,感染臓器だけではなく,原因微生物をも類推/特定する。ただし肺炎が疑われない場合は下気道分泌物の培養を提出するべきではない。血液培養は好気性菌用と嫌気性菌用ボトルの少なくとも2セット分の血液(10ml)をそれぞれ異なる部位から採血する。可能な検体ではグラム染色を行い、抗菌薬を選択する際の参考にする。

他に原因がなくカテーテル感染を疑った場合,他部位から血液培養を行うとともに,そのカテーテルからも血液培養を行い、血流感染が確認された場合や血行動態が不安定な場合は24時間以内の早期に血管内カテーテルは抜去する。

 感染症診断の補助検査としてプロカルシトニンを評価することも考慮する。プロカルシトニンを利用した抗菌薬の中止(ピーク値より80%以上の減少または0.5μg/L以下)を行うことも考慮する。

 

5. 敗血症における抗菌薬選択

 

 

敗血症性ショック患者において,抗菌薬投与が1時間遅れるごとに死亡率が7.6%増加すると報告されている。さらに複数の報告において,抗菌薬投与開始が敗血症の診断から1 時間以内であれば,死亡リスクが低下することが示唆されている。また,救急外来に来院した敗血症患者では,APACHE Uスコアが21点以上の重症群では抗菌薬投与開始までの時間と死亡に関連性がみられた。これらのことから,SSCG2012,日本版敗血症診療ガイドラインでも診断から1 時間以内の投与が推奨されている。そこで2016日本版敗血症診療ガイドラインではエキスパートコンセンサスとして推奨している、

必要なソースコントロールができている場合においては,デエスカレーションは理にかなった戦略であり,SSCG2012 2012年日本版敗血症診療ガイドラインもデエスカレーションを支持してきた。敗血症,敗血症性ショックの患者に対する抗菌薬治療において,デエスカレーションを実施することを弱く推奨する(2D)。SSCG2012 では,細菌の感受性が判明したら,抗菌薬をデエスカレーションすることをGrade 2B で推奨している。

 院内発症の成人敗血症ではcoagulase negative Staphylococcus (CNS), S. aureus, Enterococcus属などのグラム陽性球菌の頻度が最も高い。これにE. coli, Klebsiella属、Pseudomonas aeruginosaなどのグラム陰性桿菌が続く。また市中発症の敗血症と比較してCandida属による菌血症の頻度は高くなる。

 感染巣不明の成人敗血症の場合はアンチバイオグラムを参照し、抗緑膿菌作用が保たれているβ-ラクタム薬(2018年の当院におけるアンチバイオグラムではPIPC/TAZ, CAZ, CFPM, MEPM, DRPMが感受性率80%以上である)を投与する。

手術部位感染症やカテーテル関連血流感染症・皮膚軟部組織感染症など耐性ブドウ球菌が問題となる感染巣がフォーカスに推定される場合バンコマイシンまたはテイコプラニンを併用し最大量を投与する。

また重症時、もしくは患者が好中球減少・細胞性免疫障害などの免疫不全にある場合Candidaによる感染を考慮し、MCFG, CPFG, またはL-AMBなどの抗真菌薬の併用を考慮する。治療開始4872時間で抗菌薬の有効性を検討し、狭いスペクトルの抗菌薬に変更する(de-escalation)。非感染性とわかったら、すぐに抗菌薬をやめる。

 

参考文献

・日本集中治療医学会・日本救急医学会 合同作成 日本版敗血症診療ガイドライン2016