B. 11. 重症急性膵炎

急性膵炎とは膵臓の急性炎症で、他の隣接する臓器や遠隔臓器にも影響を及ぼし得るものである。大多数の急性膵炎は突然発症し、上腹部痛を伴い、種々の腹部所見(軽度の圧痛から反跳痛まで)を伴う。急性膵炎の多くの場合、嘔吐、発熱、頻脈、白血球増加、血中または尿中の膵酵素の上昇を伴う。 また、急性膵炎には、短期間の入院治療で軽快する軽症例から、循環不全、重度臓器不全や重症感染症などの致命的合併症を併発し、死亡する確率の高い重症例まで、その重症度は様々である。急性膵炎と診断された段階で、重症度判定を行うことは患者が適切な治療を受ける可能性を高め、予後を改善させる可能性があり、経時的に重症度判定を繰り返すことが推奨されている。

 

急性膵炎は膵臓の自己消化から炎症を起こして発症するもので、発症時は無菌であり、理論上予防的抗菌薬は不要とされる。我が国の急性膵炎診療ガイドラインでは、軽症例に対しては感染性合併症の発生率・死亡率は低く、予防的抗菌薬の投与は行わないことを推奨している。重症例や壊死性膵炎に対する予防的抗菌薬投与については、新たに実施されたメタ解析で、発症早期(発症後72時間以内)の予防的抗菌薬投与の生命予後や感染性膵合併発症に対する明らかな改善効果は証明されなかったことから、2021年のガイドライン改訂では推奨とはされていない。

ただし、細菌感染症は急性膵炎の臨床経過や治療に大きな影響を与え、腸内細菌群による膵および膵周囲の感染症は急性膵炎の予後を悪化させる原因となるため、壊死性膵炎に感染合併が疑われた場合や胆石性膵炎で胆管炎など膵以外の部位の感染合併(胆道、尿路、呼吸器、体内留置カテーテルなど)を認める場合は、原因菌検索のため抗菌薬投与前に血液培養に加え感染巣部検体での細菌検査を実施するとともに、薬剤感受性検査に基づき適切な抗菌薬投与を行う。抗菌薬選択は『B.9. 複雑性腹腔内感染症』の項に準じ、感染兆候を認めない場合は早期中止を検討する。

 

また、広域スペクトラムの抗菌薬使用が真菌感染症の合併を増加させるという報告もある。重症急性膵炎における真菌症の合併率は1.6-6%、膵および膵周囲感染では17-32%とする報告もあり、真菌症のリスクファクターである中心静脈カテーテル留置、完全経静脈栄養、予防的抗菌薬投与、抗菌薬長期投与、人工呼吸器管理症例では真菌感染症の合併に注意する。しかしながら、予防的抗真菌薬投与による急性膵炎の病態改善効果は明らかではないため推奨しない。

 

参考文献

急性膵炎診療ガイドライン2021