B. 各 論 |
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B.1 細菌性髄膜炎 Meningitis |
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B.1.1 成人細菌性髄膜炎診療時の留意事項 |
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1) 項部硬直などの典型的な症状は全例には見られない(高齢者では35%程度)のでまずは疑うことが診断への第一歩である。 2) 典型的な細菌性髄膜炎の髄液所見は@糖45mg/dl 以下A蛋白500mg/dl
以上B細胞数1000以上(多核球優位)と言われているが、実際の細菌性髄膜炎の髄液所見は多岐にわたるので、髄液所見が典型的でなくても髄膜炎が疑われれば早期に専門医に相談し抗菌薬の使用を考慮する。 3) 抗菌薬は髄液移行性の観点から可能な限り最高量を用いる。βラクタム系薬は分割投与(1日4回)が望ましいが、我が国の一般的な投与量では1回投与量が不十分となることも危惧されるので、髄液内濃度と原因菌のMICから投与量を調節する。 4) 抗菌薬の使用期間は7~14日、結核性髄膜炎の場合は12~24ヶ月間、グラム陰性桿菌による髄膜炎では基礎疾患や患者状態を加味して比較的長期(12~21日間)の投与が目処となる。しかしいずれの場合も臨床症状・徴候・検査所見を参考にして決定する。 5) 近年インフルエンザ菌や肺炎球菌髄膜炎では。抗菌薬投与前の副腎皮質ステロイドの短期使用(デキサメタゾン0.15mg/kg/回を1日4回2~4日間静注)の有用性が報告されている。しかしこの場合は原因菌に有効な抗菌薬の十分量の投与がなされていることが前提となる。 6) 成人の細菌性髄膜炎の原因菌の頻度は肺炎球菌が最も多く次いで髄膜炎菌、グラム陰性桿菌、リステリア属、インフルエンザ菌などである。このうち、髄膜炎菌は人を唯一の宿主として人から人へ飛沫感染で伝播する。 7) リステリア属は乳幼児に多いが成人では60歳以上、担癌患者、副腎皮質ステロイド使用患者、糖尿病、肝・腎障害、H2ブロッカーやプロトンポンプ・インヒビター薬服用中の患者(胃液pHの低下)などがハイリスクグループとされる。我が国では市販されている食肉類のリステリア属による汚染率が極めて高く健康成人の数%がリステリア属の保菌者であるといわれている。 |
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成人細菌性髄膜炎診療時に必要な検査 |
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1) 末梢血検査(白血球数、白血球文画含む)、赤沈、CRP 2) 髄液検査*(脳圧亢進が著しい場合=巣症状がある場合は禁忌)。 検査項目 @ 細胞数及び分画(多核球、単核球)、髄液糖(血糖も必ず測定)、髄液蛋白 A 培養(細菌、真菌、結核菌)、グラム染色、抗酸菌染色、墨汁染色 B 結核菌PCR、髄液中アデノシンデアミナーゼ(ADA)** C 必要・可能であれば髄液中クリプトコッカス抗原などのラテックス凝集反応、Herpes
simplex virus PCR、トキソプラズマ抗体など D 可能であれば残った髄液は凍結保存する 3) 血液培養2セット*** *:治療経過は可能な限り髄液所見で確認していく。CRP、末梢白血球のみに頼らない。 **:ADA は髄液中濃度8.5IU/lで結核性髄膜炎が疑われるといわれる(診断の感度は57%、特異度は87%)。しかし重症の細菌性髄膜炎やHIV陽性者では偽陽性となることもある。 ***:抗菌薬未投与患者でグラム陽性菌が原因菌だった場合は50〜70%で陽性となる。髄膜炎菌が原因菌だった場合には陽性率は低い。 |
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各種患者背景における成人細菌性髄膜炎のempiric therapy |
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*:セフォタキシム、セフトリアキソン、セフェピム、セフピロム。 **:髄膜炎に対する保険適応があるのはパニペネム/ベタミプロンとメロペネム。 ***:バンコマイシンの保険適応疾患はMRSA感染症のみ。しかしβラクタム系薬剤にアレルギーがある患者では感性菌であれば使用せざるを得ない。髄液移行が低いので4g/日(1回0.5gを6時間毎、または1回2gを12時間毎)使用するが、血中濃度のモニタリングが必要。 |
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成人細菌性髄膜炎における各種原因菌に対する抗菌薬の選択 |
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*:アンピシリン4~8g/日分2-4点滴静注またはピペラシリン8g/日分4点滴静脈注。 **:セフォタキシム、セフトリアキソン、セフェピム、セフピロム。 ***:髄膜炎に対する保険適応があるのはパニペネム/ベタミプロンとメロペネム。 ****:バンコマイシンの保険適応疾患はMRSA感染症のみ。 |
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B.1.2 細菌性以外の髄膜炎(脳炎)の治療 |
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B.1.3.1 クリプトコッカス髄膜炎 (1) AIDS患者の場合:アンホテリシンB0.7~1mg/kg/日静注 +フルシトシン25mg/kg6時間ごと経口を2週間または臨床的に安定するまで継続。続いてフルコナゾール400mg/日に切り替え、最低10週間続けた後200mg1日1回の抑制療法に切り替える。抑制療法は有効な抗HIV治療を行ってCD4数100以上となった場合に中止が推奨される。なお、AIDS患者でも意識状態正常で髄液細胞数20未満、クリプトコッカス抗原1024倍未満であればフルコナゾール単独療法(フルコナゾール400mg経口1日1回6~10週その後抑制療法)が妥当。 (2) AIDS患者以外の場合:アンホテリシンB0.5~0.8mg/kg/日静注 +フルシトシン25mg/kg6時間ごと経口を患者の発熱が軽快し培養が陰性になるまで継続。続いてフルコナゾール400mg1日1回に切り替え8~10週間(重症でない場合)。再発率を低下させるためには2年間フルコナゾールを投与すべきとの報告もある。 髄液圧が250mmH2Oであった場合、200mmH2O以下になるまで毎日髄液穿刺を行う。この疾患を診断した場合、HIV感染を疑って検査する。フルシトシンの血中濃度はピーク値70~80mg/L、トラフ値30~40mg/Lとなるよう調節する。 B.1.3.2 単純ヘルペスウイルス症(単純ヘルペスウイルス脳炎) アシクロビル10mg/kg静注(1時間以上かけて)8時間ごと14~21日間。 Herpes simplex virus type 1(HSV1)は散発性脳炎の原因として最も多い。生存率と神経学的後遺症からの回復の程度は治療開始時の精神症状の程度に左右されるため早期診断・早期治療が大切。髄液中HSV-PCR検査は特異度100%、感度75~89%で有用な検査である。 |
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B.1.3 小児の細菌性髄膜炎 |
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1か月未満:B群レンサ球菌,大腸菌が多い→ABPC+CTXまたはABPC+アミノグリコシド薬 ABPCはリステリア(セフェム耐性)の場合に備えて用いる。 1か月以降:インフルエンザ菌,肺炎球菌が多い→CTX(またはCTRX)+PAPM/BP(またはVCM) 脳脊髄液検査後すみやかにステロイド(デキサメタゾン)と抗菌薬を静注 抗菌薬による菌体破壊に伴う高サイトカイン血症の悪影響を緩和する目的で使用する(0.15mg/kg/回を6時間毎)。抗菌薬投与の直前または同時に静注する。 起因菌が判明したら単剤へ変更する 小児細菌性髄膜炎における抗菌薬の選択
CTX:セフォタキシムCTRX:セフトリアキソン、PAPM/BP:パニペネム・ベタミプロン、MEPM:メロペネム、VCM:バンコマイシン aCTXまたはCTRXのMIC≥1μg/mlの場合は推奨されない。b MEPMが使用不能または無効なときは、βラクタマーゼ陰性株ではPIPC、陽性株ではPIPC/TAZも使用できる。 小児細菌性髄膜炎における抗菌薬の投与量4)
新生児での使用量は参考文献(Tunkel AR, et al. Practice
guidelines for the management of bacterial meningitis. Clin
Infect Dis. 2004;39:1267-1284)を参照 |