A. 総 論 抗菌薬を適正に使うために |
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A.1.
抗菌化学療法の基本的事項 |
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1)
必要と判断した場合のみ、抗菌薬を選択して投与法、投与量、投与期間を決める。 2)
感染巣(臓器)と具体的病原菌を必ず想定する。 3)
抗菌薬の併用はエビデンスに基づいた適応例のみに限定する。 4)
抗菌薬以外の併用薬との相互作用にも十分に注意する。 5)
目的の不明確な抗菌薬の長期投与を避ける。 6)
周術期の予防的投与には手術の清潔度と部位により投与時期と抗菌薬の選択をする。 |
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A.2.
投与方法 |
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@ 濃度依存的に作用するもの(フルオロキノロン系、アミノグリコシド系など) 濃度依存的に作用する抗菌薬は最高血中濃度に依存して効果を示す。さらに、PAE
(post antibiotic effect:持続性)作用を持つことが知られている。したがって、1日量が同じであれば、1日2-3回に分割して投与するより、1回で投与した方が有効である。 A
時間依存的に作用するもの(β-ラクタム系;ペニシリン系、セフェム系など) 時間依存的に作用する抗菌薬はMIC(最小発育阻止濃度)以上の濃度で、菌と接触する時間が長ければ長いほど、有効である。したがって、1日2回よりも、1日3-4 回投与の方が有効である。 表 抗菌薬の作用様式による分類とPK-PD
indexとの関係
Craig
WA. Clin Infect Dis, 26: 1-12, 1998. Scaglione F. Int J Antimicrob Agents, 19:
349-353, 2002. |
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A.3 治療効果の判定 |
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1) 抗菌薬投与開始後は原則として3日目前後にその治療効果の判定を行う。判定には細菌培養検査結果のみならず、患者の全身状態や感染臓器の状態を観察する。また、発熱、CRP、WBC、赤沈の改善、胸腹部画像検査所見の推移などを治療の有効性の判断に用いる。 2)
抗菌薬を開始しても解熱しない場合はウイルス感染、他の発熱疾患や膿瘍の可能性を考えるとともに、細菌感染であっても不適切な抗菌薬、投与方法、投与量、投与間隔となっていないか検討する。 3)
抗菌薬開始後、解熱したのちに再度の発熱が認められた場合は薬剤熱や静脈炎、二次感染なども考える。 |
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A.4
抗菌薬の排泄経路 |
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ほとんどの薬剤は腎排泄と肝・胆道排泄に分けられ、腎排泄の薬剤は腎機能低下時に、肝・胆道排泄の薬剤は肝機能低下時に減量など投与量の変更を考慮する必要がある。 表 腎臓排泄と肝臓排泄
青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル第2版, 2008年. 腎排泄型薬剤の腎機能障害時の抗菌化学療法 初回投与量は腎機能正常者と腎機能障害者において、同様でなければならない。なぜなら、初回投与の目的は、人体という一定の容積の容器に一定量の治療薬を入れて、一定の濃度を作ることである。腎機能低下時はこの容器からの排泄が遅くなっているだけで、一定の容積に一定の濃度を作る作業は腎機能正常者、腎機能障害者において同じである。したがって、腎機能障害の有無にかかわらず、初回投与は通常量を投与し、維持量については腎機能に合わせて調節する。 維持量はクレアチニンクリアランスに従い決定する。ただし、筋肉量が少ない患者では、腎機能が低下しても血清クレアチニンが上昇せず、見かけ上、腎機能正常と評価してしまい、過剰投与になる可能性がある。このようなときは、尿量、BUN、シスタチンCなどをチェックし、投与量を決定する。逆に、多尿の場合は通常量では過小投与になることがあるので、患者状態を注意深くモニターしながら投与する。 肝・胆道排泄型薬剤の肝機能障害時の抗菌化学療法 明らかな肝硬変、凝固異常が出現するほどの肝機能障害をもつ患者では、減量など投与量の調節を考慮すべきである。しかし、肝機能障害の程度による抗菌薬の調整方法に関するエビデンスは少なく、また、肝予備能は個人差が大きいため、一概に投与量を決めることはできない。効果と副作用を評価しながら使用すべきである。 |
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A.5抗菌薬の移行性 |
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試験管の中でいかに優れた抗菌活性を示しても、実際に感染を起こしている組織に移行・浸透しなければ意味がない。特に、中枢神経系や前立腺などは抗菌薬によっては移行しないものがあるので、移行のよいものを知っておく必要がある。 例)前立腺への移行がよいもの:ST合剤、キノロン系、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、アジスロマイシンなど。 表 中枢神経系への移行性
青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル第2版, 2008年 表 臓器別の移行性
山田舞子 ほか. 感染対策ICTジャーナル,
6: 48-53, 2011. |