クロイツフェルト・ヤコブ病

詳細はプリオン病感染対策ガイドライン(2008年版要約)を参照

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クロイツフェルト・ヤコブ病(CreutzfeldtJakob disease, CJD)は100万人に一人の割合で弧発性(sporadic CJD; sCJD)または家族性(遺伝性)に生じ、脳組織の海綿(スポンジ)状変性を特徴とする疾患である。成因から、プリオン(prion)病、また病理から伝達性海綿状脳症(transmissible spongiform encephaolopathy, TSE)とされている。プリオン病の病因は、神経細胞表面にある正常プリオン蛋白が異常構造体へ変換後、異常プリオン蛋白の蓄積が生じ、神経細胞が変性した結果であると言われている。最近では、ウシ海綿状脳症(bovine spongiform encephalopathy; BSE)罹患牛を経口摂取したことによる変異型CJD (variant CJD; vCJD)が知られている。vCJDは、神経組織だけでなく、血液・リンパ組織も感染性を有するため、sCJDとは異なる感染対策が必要である。

 

疫学

 我が国を含め、世界各国のsCJD 有病率は同一で、人口100 万人対1 前後とまれな疾患である。発症年齢の平均は62 歳であり、女性が男性よりやや多い。大多数が弧発例で、家族性あるいは遺伝性のゲルストマン・ストロイスラー・ シャインカー病(GSS) が約10% ある。一方、vCJDは、英国をはじめとするヨーロッパ諸国を中心に208例(20087月現在)を数え、わが国でも英国滞在者の1例が報告されている。

 

臨床症状

 弧発性CJD の主症状は進行性痴呆とミオクローヌスである。発病より数ヶ月で痴呆、妄想、失行が急速に進行し、筋硬直、深部腱反射亢進、病的反射陽性などが認められる。さらに起立歩行が不能になり、3 7 カ月で無動性無言状態に陥る。12年で全身衰弱、呼吸麻痺、肺炎などで死亡する。遺伝性CJD は弧発性CJD に似た臨床症状を示す。一方、vCJDは若年で発症すること、発症して死亡するまでの平均期間が緩徐なこと(平均18ヶ月)が特徴である。

 

病原体

プリオンは主に、異常プリオン蛋白の凝集による幅4nm 、長さ数百nm 程度の感染性微細線維状物質からなり、その感染価は得られた臓器により一致しないことがあることから、プリオン以外に感染性に影響する因子が想定されている。CJD では一般に空気感染や経口感染はないとされている。紫外線、エタノールなどの消毒法が無効であり、手の汚染、注射針などの刺傷、感染物の眼への飛沫や手で眼をこすることなどをさける。汚染したものは焼却するか、3%SDS sodium dodecyl sulfate)を含む溶液中で100度、5分間以上加熱処理後、オートクレーブするなど特殊な消毒法が必要である。

 

病原診断

異常プリオン蛋白は上記のように蛋白分解酵素に耐性を獲得するので、剖検材料(脳組織、扁桃、脾、髄膜、移植例では角膜)から蛋白分解酵素耐性の異常プリオン蛋白の同定をウエスタンブロット法やELISA 法によって行う。また、蟻酸処理後に抗プリオン抗体による免疫染色を行う。

 

CJD患者に用いた手術器具等の処理

CJDプリオン汚染の可能性のある症例に用いた手術器械の処理に関する勧告

小林寛伊他 手術医学 29:S69-71, 2008

1)  現段階において日常的に採用されている洗浄滅菌方法で十分その危険性は回避できる。但し、洗浄消毒装置(ウォッシャー・ディスインフェクター)および滅菌器に関するバリデーションならびに日常管理が確実におこなわれていることが前提条件である。

2)  あらかじめCJDと判明している症例に対する手術、ならびにCJDを疑う症例の手術では、可能な限り単回使用器材single use devices (SUDs)などの廃棄償却可能な手術器材を使用することが望ましい。再使用せざるを得ない手術器械に対しては、下記3)の洗浄滅菌法を採用しなくてはならない。

3)  CJDプリオンの感染性不活化に有効な臨床的処理方法としては、次のものが挙げられる。

@     アルカリ洗剤ウォッシャー・ディスインフェクター処理+真空脱気プリバキューム式高圧蒸気滅菌134℃、810

A     適切な洗剤による十分な洗浄+真空脱気プリバキューム式高圧蒸気滅菌134℃、18

B     アルカリ洗剤洗浄(洗剤濃度/洗剤温度はメーカー指示に従う)+過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌

 

患者の看護と感染防止策

1.  一般的診療のような非侵襲的医療行為、看護や介護スタッフの日常的な接触、およびX 線検査、MRI のような非侵襲的検査ではCJD 感染の危険性はない。標準予防策で十分であり、特別な予防衣を用いる必要性はない。

2.  患者の看護、介護には一般の患者と同様、隔離は不要であり、一般病棟で看護ケアを行うことができる。感染防御のために個室を用いる必要性はない。

3.  入院、病室や介護施設での受け入れでCJD 感染を理由に差別されることがあってはならない。

4.  入浴は一般患者と共用の浴室でよい。入浴による CJD 感染拡大の危険性はない。

5.  注射、採血、髄液採取時には肝炎での場合と同様、針刺し事故に十分注意する。その他、理髪、爪切り、口腔内の洗浄、入れ歯の入れ替えなどの際、切傷に注意する。万一、血液でスタッフの手が汚染されたときには流水で十分洗浄すること。

6.  眼が飛沫で汚染された場合、生理食塩水で十分、洗眼する。

7.  医療廃棄物は一般患者の医療廃棄物と同じ規則に従って廃棄可能である。体液で汚染されたリネン類なども、廃棄可能なものは焼却廃棄し、廃棄不可能なものは1〜5%次亜塩素酸溶液に2時間浸した後、洗濯する。

8.  排泄物:尿、便などの排泄物の処理法は一般患者と同じである。

 

消化管内視鏡

vCJDでは、腸管壁のリンパ組織に感染性があり、生検を行えば完全な滅菌の困難な内視鏡は汚染されるため、他に手段があれば内視鏡の使用を避けるのが望ましい。sCJD の場合、消化管の内視鏡検査によってプリオンが伝達される危険性は無視できると考えられ、内視鏡は一般の患者に使用したものと同様に洗浄と消毒を行って再使用すればよい。