B型肝炎ウイルス

患者発生時の届出票

B型肝炎とは

B型肝炎を引き起こすB型肝炎ウイルス(HBV: hepatitis B virus)は、通常血液を介して成人に感染した場合には、免疫抑制剤、抗癌剤使用などの特殊な状況を除き持続感染に移行することはなく、一過性感染の形をとるが、約2030%が急性B型肝炎を発症し、そのうち1%が劇症化すると推定されている。最近、北米、欧州、中央アフリカに多く分布するジェノタイプAHBVによる急性肝炎が最近増加している。このジェノタイプAHBVによる急性肝炎では、慢性肝炎に移行する症例が約10%に認められる。一方、免疫能が十分発達していない3歳までの乳幼児に感染が成立すると、HBVが排除されずに持続感染に移行する。持続感染患者はHBVキャリアとよばれるが、このうち1015%が慢性肝炎を発症し、肝硬変や肝癌に進展することがある。

医療従事者の針刺し事故によるHBV感染の可能性は感染源がHBs抗原陽性・HBe抗原陽性の場合は約50%、HBs抗原陽性・HBe抗原陰性の場合は約30%とされている。

B型肝炎の検査法

検査法

意義

HBs抗原

HBV感染状態

HBs抗体

既往のHBV感染、防御抗体

HBc抗体

低値:既往のHBV感染(ほとんどHBs抗体陽性)

高値:HBV感染状態(ほとんどHBs抗原陽性)

IgM-HBc抗体

B型急性肝炎

HBe抗原

血中HBV多い(感染性強い):肝炎持続、HBV増殖

HBe抗体

血中HBV少ない(感染性弱い)

HBV-DNA定量

血中HBV量、HBV増殖

 

免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎への対策

l   HBVキャリアや既往感染者(臨床的には治癒状態と考えられるHBs抗原陰性でHBc抗体またはHBs抗体陽性例)で強力な免疫抑制・化学療法中あるいは終了後の一部にHBV再活性化によりB型肝炎が発症し、中には劇症化する症例が存在することが明らかとなった。とくに既往感染者におけるこのようなB型肝炎を「de novo B型肝炎」と呼ぶ。

l   HBV再活性化による肝炎は重症化しやすいだけでなく、肝炎の発症により原疾患の治療を困難にさせるため、発症そのものを阻止することが最も重要である。

 

日本肝臓学会編 B型肝炎治療ガイドライン

免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン

 

l    免疫抑制療法および化学療法施行前には全例にHBs抗原を、HBs抗原陰性例ではこれに加えて、HBc抗体とHBs抗体を実施し(図 注1)、いずれかが陽性であれば消化器内科に紹介する(図 注2)

l   初回化学療法開始時にHBc抗体、HBs抗体未測定の再治療例および既に免疫抑制療法が開始されている例では、抗体価が低下している場合があり、HBV-DNA定量検査などによる精査が望ましい(図 注3)

l   HBs抗原陽性であれば核酸アナログ製剤の適応であるが、HBs抗原陰性でHBc抗体あるいはHBs抗体陽性の場合はHBV-DNA定量検査によるモニタリングを行う(図 注4)

l    リツキシマブ(±ステロイド)、フルダラビンを用いる化学療法および造血幹細胞移植の場合:既往感染者からのHBV再活性化の高リスクであり、注意が必要である。治療中および治療終了後少なくとも12か月の間、HBV DNAを月1回モニタリングする。造血幹細胞移植例は、移植後長期間のモニタリングが必要である(図 注5a)

l    通常の化学療法および免疫作用を有する分子標的治療薬を併用する場合:頻度は少ないながら、HBV再活性化のリスクがある。HBV DNA量のモニタリングは13か月ごとを目安とし、治療内容を考慮して間隔および期間を検討する。血液悪性疾患においては慎重な対応が望ましい。(図 注5b)

l    副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬、免疫抑制作用あるいは免疫修飾作用を有する分子標的治療薬による免疫抑制療法の場合:HBV再活性化のリスクがある。免疫抑制療法では、治療開始後および治療内容の変更後(中止を含む)少なくとも6か月間は、月1回のHBV DNA量のモニタリングが望ましい。なお、6か月以降は3か月ごとのHBV DNA量測定を推奨するが、治療内容に応じて高感度 HBs抗原測定(感度 0.005 IU/mL)代用することを考慮する。 (図 注5c)

l    免疫抑制・化学療法を開始する前、できるだけ早期に核酸アナログ投与を開始する。ことに、ウイルス量が多いHBs抗原陽性例においては、核酸アナログ予防投与中であっても劇症肝炎による死亡例が報告されており、免疫抑制・化学療法を開始する前にウイルス量を低下させておくことが望ましい。(図 注6)

l    免疫抑制・化学療法中あるいは治療終了後に、HBV DNA量が20 IU/ml(1.3 LogIU/ml)以上になった時点で直ちに核酸アナログ投与を開始する(20 IU/ml 未満陽性の場合は、別のポイントでの再検査を推奨する)。また、高感度 HBs抗原モニタリングにおいて 1 IU/mL未満陽性(低値陽性)の場合は、HBV DNAを追加測定して 20 IU/ml以上であることを確認した上で核酸アナログ投与を開始する。免疫抑制・化学療法中の場合、免疫抑制薬や免疫抑制作用のある抗腫瘍薬は直ちに投与を中止するのではなく、対応を肝臓専門医と相談する。(図 注7)

HBV曝露時には

(1) HBVに曝露時は、速やかに以下の応急処置を行い、「針刺し・切創・粘膜曝露への対応」に従って対処する。

@ 針、メス刃などによる刺し傷や切り傷の場合は、創部を流水と石けんで十分洗う。

A 眼などに血液が飛んだ時には、多量の水による洗浄を行う。

B 口腔粘膜などには、ポピドンヨードガーグルを使用する。

C 無傷の場合でも、手指等が血液、体液などに触れた場合は、流水下で十分に洗う。

(2) 感染源(患者)がHBs抗原陽性で、かつ受傷者がHBs抗体陰性の場合は、48時間以内(可能なら24時間以内)にHBsグロブリン注射とHBワクチンを行う必要がある。

HBV感染者に日常管理について

(1) 血液や唾液、体液を介する感染の可能性を十分に自覚させ、これらが付着したものの処理に注意する。 (2) 日用品では、血液や唾液、その他の体液に直接触れる物品(剃刀、歯ブラシ、爪切り、うがい様コップなど)は個人の専用とし、他人と貸し借りしないよう指導する。

(3) テーブルなど、血液、体液が付着した場合には0.5%次亜塩素酸ナトリウムで清拭する。