近年強化されている医科歯科連携の取り組みについて、歯科の山口先生・西村先生・山﨑先生・於保先生に話をききました。
鹿児島大学病院
歯科口腔ケアセンター 副センター長
山口 泰平 先生
鹿児島大学病院 口腔保健科 診療科長 教授
於保 孝彦 先生
鹿児島大学病院 副病院長(特命) 教授
西村 正宏 先生
鹿児島大学病院 副病院長(歯科担当) 教授
山﨑 要一先生
山口先生/鹿児島大学病院では、医科の病気で入院される患者さんに対し、併せて歯科も受診していただき、適切な口腔ケアを行うことを徹底しています。手術前のチェック、治療にともなう口の中のトラブルにも対応します。大学病院ならではの高い専門性を活かし、歯科全体で取り組んでいます。
於保先生/もともと口の中には多くの菌が存在しています。例えば、全身麻酔による手術をする場合、口から管を通し、口の中にあった菌が肺に感染し肺炎を引き起こすことがあります。抗がん剤などの化学療法では、体の免疫力が下がるため、より感染しやすく、口内炎などの有害事象が重篤化するリスクが高まります。術前術後に適切な口腔管理をすることで、これらを予防・軽減できることが実証されてきています。
山﨑先生/これは、イレギュラーな入院の長期化を防ぎ、総体的な入院期間の短縮にも大きく貢献していると思います。医師からも重要性が認知され、入院患者と接する看護師に口腔ケアの教育も行われるようになりました。
西村先生/医科との連携を進める一方で、歯科全体でも細かに問題点を共有し、業務改善を目指すべきだと思い、昨年からプロジェクトチームを発足させました。現場から課題を吸い上げ、連携強化、コスト削減、収益・保険改善、医療安全・感染症対策の4班に分かれて検討し、全体会議で確認。決定事項のポイントは診療に関わる全構成員にメールで配信され、すみやかに共有されるシステムを作りました。業務を常に見直し、改善を図っていきます。
山﨑先生/最近歯科では、外来の予約を電話センターで一本化して受けるシステムに変更したのも良かったと思います。現場で診療を行う歯科衛生士が対応していた頃に比べると、より診療に集中できる環境になり、作業も効率的で、患者さんをお待たせする時間も軽減されています。
山﨑先生/歯科恐怖症の患者さんに対する治療です。過去に歯科治療で受けた強いストレスや恐怖がトラウマになってしまった方、併せて障害を持つ方も多くいます。全身麻酔を使い、入院もしくは日帰りでの治療に対応し、患者さんにとって、極力ストレスのない方法を提案します。ぜひ相談してほしいです。
西村先生/歴史的にも実績が多いのが、口唇口蓋裂の治療。成長に合わせて、口腔外科、矯正歯科、小児歯科など総合的な治療が必要で、約20年と長期にわたるのも特徴です。県外の患者さんも多く受け入れているほか、中村教授はベトナム・インドネシアでの出張手術も行なっています。
西村先生/今増えているのが、過去に受けたインプラントが壊れてしまったが、治療ができなくなってしまった患者さん。「かかりつけ医が高齢になって辞めてしまい、どこに行けばいいか分からなくて」という声も多いんです。メーカーが多岐にわたり、それぞれに仕様が違うため、クリニックでは対応しきれない難しさがあります。鹿児島大学病院では6メーカーを取り扱い、幅広い治療に対応しています。
於保先生/鹿児島大学病院で医科歯科連携がスタートしたのは平成18年。平成24年の周術期口腔機能管理(術前・術後に行う歯科診療)の保険適応に先駆け、いち早く取り組み、体制を整え、実績を積み重ねてきました。これからも、質の高い医療を提供できるように医科歯科連携を進めていきます。
山口先生/歯科診療室は、令和5年竣工予定のA棟への移転が決まっています。医科と歯科の外来診療室が直結し、患者さんの負担となっていた移動の不便さは解消される見込みです。それまではご不便をかけますが、新しくなる病棟にも期待していただきたいと思います。
山﨑先生/最近、医療機関に限らず高齢者や障害者と関わる現場からの声を受け、「摂食嚥下障害」に関する講習会も実施しています。障害を持たれた方への治療経験が多いのは大学病院の特徴であり、役目だと思っています。大学病院が中心となり、学びの場を作り、理解を広げていきたいと思います。
西村先生/口腔ケアは、まずは身近なかかりつけ医を持つことが大切。ですが重症化した治療には、私たち大学病院が「最後の砦」として答えを出せるよう取り組みます。教育・研究機関として、新しい歯科医療の技術開発にも励み、社会に貢献できる病院を目指します。