■Clostridioides (Clostridium)
difficile |
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主に抗菌薬の使用によって腸内の正常細菌叢が撹乱された結果C. difficile(CD)が増殖し、トキシンが産生されることで症状が出現するが、無症候または軽度の軟便から、腸穿孔や中毒性巨大結腸症をきたし外科的治療も考慮すべき重篤なものまでさまざまである。 とくに新生児から乳児までの無症候性定着率は高く(20%~90%)、その後2~3歳になるまでに定着率は1~3%となる。医療機関への受診歴がない成人での定着率は<2~15%だが、入院環境では約30%まで、長期介護施設などでは約50%まで高率となるとの報告がある。 |
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■定義・リスク因子・診断 |
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・ C. difficile
感染症(CDI)は、2歳以上でBristol
Stool Scale 5以上の下痢を認め、便中のトキシンが陽性もしくはトキシン産生性のCDを分離する、もしくは下部消化管内視鏡や大腸病理組織で偽膜性腸炎を呈するものと定義される。 ・ 下痢は24時間以内に3回以上もしくは平常時よりも多い便回数で、Bristol
Stool Scale 5以上の便を目安とする。 (Bristol Stool Scaleについては微生物検査を参照のこと) ・ 下痢を認めずに麻痺性イレウスや中毒性巨大結腸症をきたすことがある。 ・ CDI発症のリスク因子としては高齢・抗菌薬(クリンダマイシン・カルバペネム系薬・セファロスポリン系薬・フルオロキノロン系薬)使用が重要であり、その他過去(3か月以内)の入院歴・消化管手術歴・慢性腎臓病や炎症性腸疾患などの基礎疾患・経鼻経管栄養の使用・制酸薬(プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬)もリスク因子として考慮する。 ・ CDI発症リスクを有する抗菌薬投与患者においては、プロバイオティクス製剤による予防を弱く推奨する。 ・ 便のCDトキシンA/B迅速検査(細菌特殊検査) CDトキシン検査の感度は70〜80%にとどまるため、当院ではCDトキシンと一緒にCDの抗原であるグルタミン酸脱水素酵素(GDH)を検出する迅速検査を実施している。 ・ 便の嫌気培養による検出 当院でのCDトキシン検査判定フローチャート 迅速検査でGDHが陽性でトキシン陰性と判定された場合、培養検査で再評価を行うため、その間トキシンの検査結果は(±)と表記する。 抗菌薬が投与されていた入院患者で下痢が見られる場合は、検査依頼を行う。ただし入院患者ではCD保菌例も存在するため、感染症を疑わせる臨床症状がない場合は検査を実施しない。 2歳未満の小児では保菌率が高く病因としての意義が確立していないため、他の感染性もしくは非感染性の下痢症の原因が除外されていない限り、検査は推奨されない。 大腸内視鏡検査で偽膜性腸炎の組織所見を確認できる。特異度は高いが感度は50%と低いため、必ずしも必須ではない。 |
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■再発の定義・重症度 |
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・ 再発は「適切な診療を受けたにもかかわらず、CDI発症後8週間以内にCDIを再度発症したもの」と定義する。そのリスク因子としては高齢(65歳以上)・CDI診断後の抗菌薬の使用歴・腎不全などの重篤な基礎疾患の存在・CDIの既往・PPIの使用が挙げられる。 ・ 現時点で推奨できる重症度分類はないが、先行研究および各国ガイドラインを参考に日本の現状を考慮して作成されたMN基準が提唱されている。 ・ 難治例は2回以上の再発を繰り返すものと定義される。 |
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■治療 |
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CDIの治療薬としては、メトロニダゾール・バンコマイシン散・フィダキソマイシンがある。 第1選択薬 初発・非重症例 メトロニダゾール1回500mg 1日3回、10日間経口投与または点滴静注 メトロニダゾールは過敏症既往に加え、脳・脊髄に器質的疾患を有する患者,妊娠3ヶ月以内の患者は禁忌、血液疾患・脳膿瘍患者は慎重投与とされており、またCCr<10ml/min、透析患者は半量へ減量する必要がある。 初発・重症例 バンコマイシン散1回125mg1日4回、10日間経口投与 (1バイアル0.5gを注射用水またはブドウ糖液20mlに溶解し5mlずつ投与、冷蔵保存 ※ 苦味が強いため経口投与の場合は、ブドウ糖液での溶解または単シロップ(等量混合)での矯味を考慮する。) 再発例 バンコマイシン散1回125mg1日4回、10日間経口投与 (1バイアル0.5gを注射用水またはブドウ糖液20mlに溶解し5mlずつ投与、冷蔵保存) または フィダキソマイシン1回200mg1日2回、10日間経口投与 効果が得られない場合・ショック・中毒性巨大結腸症・麻痺性イレウスの場合 バンコマイシン散1回500mg1日4回注射用水またはブドウ糖液20mlに溶解、10日間経口投与 または バンコマイシン散1回500mg/100mL生理食塩水1日4回、10日間経腸投与 (メトロニダゾールの併用も考慮) 難治例・アウトブレイク時 フィダキソマイシン1回200mg1日2回、10日間経口投与 重症化・再発リスクが高く、免疫不全状態・重症のCDI・強毒株(リボタイプ027, 078, または244)への感染、過去3回以上の既往歴のある場合は抗トキシンB抗体であるベズロトクスマブ点滴静注を考慮する。 |
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■患者が発生したら |
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1.
便失禁または感染性の原因がありそうな急性下痢症を呈した場合は検査結果が出る前より接触予防策を実施する。→感染経路別予防策 診断確定前から感染経路別予防策が必要な症状を参照 2.
便迅速検査でCDトキシン陽性または便培養でトキシン産生性クロストリジウム・ディフィシルが検出されたら、細菌検査室はICTメーリングリストで連絡する。また患者を個室隔離し、更衣やおむつ交換ではエプロンを装着する。聴診器や血圧計は患者ごとに個別化する等の接触予防策をとる。個室隔離できない場合は、伝播がおこらないよう接触予防策の徹底を図り、可能な限り個別の便器を使用する。 3.
便迅速検査でGDH陽性の場合も、細菌検査室はICTメーリングリストで連絡し、患者はトキシン産生性の結果がわかるまで個室隔離し、接触予防策をとる。個室隔離できない場合は、伝播がおこらないよう接触予防策の徹底を図る。便培養検出菌株でトキシン陰性が確認されれば病原性は低いと考えられるため、必ずしも治療や接触予防策を要さない。 4.
同じ病棟で下痢症患者が他に出現する場合は、CDトキシン検査の提出をすみやかに行う。 5.
Bristol stool scaleが5以上の下痢が持続している場合は接触予防策を継続し、個室隔離・接触予防策の期間は、下痢が消失して48時間を経過するまでとする。 6.
CD保菌例では必ずしも接触予防策を要さないため、陰性化を確認するためのCDトキシン検査は不要である。 |
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■伝播予防対策 |
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1. 下痢症患者と接触したら流水と石けんによる手洗いを行う。クロストリジウム・ディフィシルは芽胞を形成するため、アルコール製剤は無効である。環境消毒には、0.1%以上の次亜塩素酸ナトリウムを使用し、患者退室後は使用した病室のターミナルクリーニングを実施する。 2. CDI発症数が多い病棟や、同一病棟で2名以上のCDI発症患者が検出された場合は、病棟における環境清掃は塩素系消毒薬の使用も考慮する。 |
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■CD関連下痢症バンドル |
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l 下痢症状のあるCD抗原・トキシン陽性例は接触予防策を開始し、患者接触後には流水・石けんでの手洗いを行う。CD抗原陽性のみの場合もトキシン産生性が否定されるまでは接触予防策を実施する。 l 誘因となっている抗菌薬の投与を中止する。 l 初回・非重症例ではメトロニダゾールをそれ以外ではバンコマイシン散での加療を開始する。 l CD抗原陽性で培養コロニーでのトキシン陰性例ではメトロニダゾール・バンコマイシン散投与の中止を検討する。また下痢症状がおちついていれば接触予防策は解除する。 l CDトキシン陽性例では下痢症状が消失して48時間まで接触予防策を実施する。 l 接触予防策解除のためのCD検査は行わない。 |