研究内容

鹿児島大学病院薬剤部は、各領域毎に研究を展開しています。
神経領域
抗がん薬による末梢神経障害の治療
プラチナ系抗がん薬の副作用に末梢神経障害があります。一度発症すると患者さんの日常生活の質 (Quality of Life: QOL)を大きく下げることが知られています。しかしながら、発生メカニズムに関しては未だ多くのことが分かっていません。現在、薬理学的・電気生理学的手法・分子生物学的アプローチから末梢神経障害のメカニズムを明らかにし、その治療薬候補の効果を検証しています。
神経接着分子に着目した神経精神疾患に対する新規治療研究
神経接着関連分子Casprを介した神経精神疾患における新規治療戦略研究、神経接着分子Casprを介したグリオーマ浸潤機構の解明と新規治療戦略研究を柱に、中枢に作用する薬剤等の安全な使用を目的とした副作用予測因子の薬剤調査研究を合わせて実施し、基礎研究と臨床現場をつなぐトランスレーショナルリサーチを展開しています。
がん領域
がん組織内の遺伝的多様性に着目した新規がん治療
がん組織は均一な遺伝的背景が揃った組織ではなく、1細胞毎に見ていくと、遺伝的多様性を持った集団で構成されていることが知られています。その中には、抗がん薬が効きやすい細胞と効きにくい細胞が存在しています。私たちはこのがん組織中の“遺伝的多様性”に着目して抗がん薬に耐性を持つ細胞はどのような性質を持つのか、どのような薬が効くのかを研究しています。
オープンサイエンスデータを用いたビッグデータ解析
近年、科学研究のあり方は大きく変わりつつあります。その中心にあるのが”オープンサイエンス(Open Science)”という考え方です。これは、研究成果やデータ、手法を研究者だけでなく広く社会に開放し、透明性・再現性の高い科学の実現を目指す取り組みです。誰もが科学にアクセスできるようにすることで、研究の加速やイノベーションの創出、そして社会とのつながりを強めることが期待されています。
こうしたオープンサイエンスの理念に共感し、私たちは現在、がんの再発に関与する遺伝子の特定とそのメカニズムの解明に取り組んでいます。がんの再発は、患者さんの治療方針や予後に大きく関わる重要な課題であり、その原因の一端を担う可能性のある遺伝子を明らかにすることは、医学的にも社会的にも意義のあるテーマです。
本研究では、国内外で公開されている“オープンデータ(例:公開ゲノムデータベースなど)”を用いて解析を行っています。現在は、使用している手法や解析の再現性を高めるための検討を重ねています。
緩和領域
オープンサイエンスデータを用いたビッグデータ解析
我が国における医療用麻薬の消費量は先進諸国の中で最も少ないといわれ、がん患者における疼痛緩和充実のためオピオイド鎮痛薬の積極的な使用推進が図られています。また近年、フェンタニル、ブプレノルフィン、トラマドールなどのオピオイド鎮痛薬が非がん性慢性疼痛へ適応が拡大されました。一方でオピオイド鎮痛薬の適正使用においては、重篤な副作用や医療事故に対するリスク管理が重要です。そこで当薬剤部では、オピオイド鎮痛薬に関する副作用報告やインシデント事例を解析し、再発防止における知見を見出すことを目的に研究を行っています。
感染領域
感染症治療薬の適正使用に関する臨床研究を中心に、薬剤師の専門性を活かした研究活動を行っています。抗菌薬は、治療の柱である一方で、使用の仕方によっては薬剤耐性(AMR)の問題を引き起こすなど、慎重な対応が求められる分野です。そのため、医療現場に即した” 抗菌薬適正使用(Antimicrobial Stewardship)”の推進と、その根拠となるエビデンスの構築が強く求められています。
私たちは、こうした社会的課題に対して、熊本大学や慶應義塾大学との共同研究を通じて、抗菌薬の使用実態と有効性、安全性を検証しながら、臨床で活用できる抗菌薬適正使用ガイドライン策定のための研究を進めています。これにより、患者一人ひとりに最適な薬物療法を提供しつつ、薬剤耐性の拡大を抑制するための科学的な根拠を提供することを目指しています。
また、感染症領域における薬物相互作用の研究にも積極的に取り組んでおり、近年では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬「レムデシビル」が、臓器移植などで使用される免疫抑制薬「タクロリムス」の血中濃度に影響を与える可能性を報告しました。これは、薬剤師による臨床観察と分析に基づく発見です。
このように、薬剤師は感染症治療においても、薬の専門家として多方面からアプローチを行い、患者安全の確保、医療の質向上、そして社会的課題の解決に貢献しています。
輸液・栄養領域
昨今の医療では、栄養管理の重要性が謳われており、全国の病院で栄養管理サポートチーム(NST)が業務を展開するようになってきました。NSTにおいて、薬剤師が担う部分は大きく、とくに輸液管理や栄養管理を適切に行うための薬剤の適正使用等について、その活躍が期待されています。本領域では、輸液管理や、栄養管理時の薬剤使用等、実際の医療現場での疑問点や問題点をピックアップして、研究を行っています。