AYA世代・妊孕性の温存
鹿児島大学病院におけるがん・生殖医療に関する意思決定支援の取組(改訂版)
1.はじめに
(ア)小児がんとは、一般的に15歳未満の子どもに発生するがんを指します。近年では、15歳から39歳までのAYA(Adolescent and Young Adult)世代に発生するがんの課題が注目されています。
(イ)AYA世代の中でも特に10代後半から20代前半の患者さんは、小児がんよりも予後が不良なことが多い一方で、小児科と成人診療科の狭間に位置するため、年齢やライフステージに応じた適切な医療や支援を十分に受けられていない場合があります。
2. AYA世代に発生するがんの特徴
(ア)AYA世代では、15歳未満の小児に多い白血病や脳腫瘍などと、成人に多い乳がん、甲状腺がん、肉腫、精巣腫瘍などのいずれも発生することが特徴です。
(イ)進行の早い肉腫などでは、診断が遅れることもあります。
(ウ)患者数が少なく、臨床試験やエビデンスが十分に確立されていないため、最適な治療法の選択に課題があります。
3. AYA世代のがん患者さんが直面する課題
(ア)外見の変化(脱毛や色素沈着など)に伴う心理的ストレス
(イ)治療による合併症や後遺症
(ウ)生殖機能(妊孕性)の喪失リスク
(エ)学校生活や就学・就労の継続の問題
(オ)友人・家族関係の変化や葛藤
(カ)精神的ストレスや将来への不安
(キ)経済的負担、社会的支援制度へのアクセスの難しさ
4. AYA世代への支援体制と当院の取組
(ア)先進的治療の提供 AYA世代のがんは多様で、再発・難治例も少なくありません。当院では全国の医療機関と連携し、企業治験や医師主導治験など臨床試験への参加を通じて、新しい治療の選択肢を積極的に提供しています。
(イ)診療科横断的なチーム医療 小児科と成人診療科(血液膠原病内科、消化器内科、消化器外科、乳腺甲状腺外科、呼吸器内科、呼吸器外科、頭頸部外科、泌尿器科、産婦人科、整形外科、脳神経外科、放射線科、リハビリテーション科など)が密に連携し、患者さんの年齢や疾患特性に応じた最適な治療を協議・提供しています。
(ウ)心理・社会的サポートの充実 ソーシャルワーカー、公認心理師、緩和ケアチームと連携し、心理的支援、学校・職場復帰の調整、医療費や制度に関する相談など、多面的なサポートを行っています。
(エ)院外ネットワークの活用 鹿児島県がん・生殖医療ネットワーク(KAGOF-net)を通じて、地域の医療機関、生殖医療施設、カウンセリング機関などと協力し、切れ目のない支援体制を整備しています。
5. がん治療と妊孕性温存への取組
(ア)がんの治療(抗がん剤、放射線治療、手術など)により、生殖機能が低下または失われる可能性があります。
(イ)当院では、がん先端医療センター、小児科、産婦人科、生殖医療専門医が連携し、がん治療開始前から妊孕性温存の意思決定支援を行っています。
(ウ)具体的には、希望に応じて治療開始前に精子保存を行ったり、卵子・胚の凍結保存が可能な施設への紹介を行っています。
(エ)当院は鹿児島県がん・生殖医療ネットワーク(KAGOF-net)に参画し、地域の生殖医療機関と協力して患者さんとご家族の意思決定を支援しています。
6. まとめ
鹿児島大学病院では、AYA世代を含むすべてのがん患者さんが、治療と将来(生殖・就学・就労など)について自ら納得して意思決定できることを重視しています。
医療チームが一体となって、がん・生殖医療に関する支援を今後も推進してまいります。

