口唇および口腔がん

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担当診療科
口腔外科・口腔顎顔面外科

腫瘍について

腫瘍について詳しくは「がん対策情報センター」でご紹介しています。下記のボタンからリンクします。

1.診療体制

口腔外科・口腔顎顔面外科で取り扱っているがん

お口の中に生じる癌として代表的なものは舌がん、歯肉がん、頬粘膜がん、口唇がんがあります。口腔外科・口腔顎顔面外科ではこれらのお口の中に生じる「がん」や「腫瘍」に対して、根本的な手術治療に加え、放射線治療、近年適応となった分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤を含めた抗がん剤治療を行い、安定した治療成績を得ております。
お口のがんはすべてのがんの約1〜3%程度と比較的希ながんです。患者さんは40〜70歳代が多く、男性が女性の1.5倍多く発症すると言われています。喫煙は発症のリスク因子とされていますが、発症のメカニズムは多くの点で不明です。しかし、発症の契機として、お口の中にトラブルを抱えていることは少なくありません。入れ歯が合わないまま使ったり、虫歯をそのままにしたり、口の中が汚れた状態が続き、いつの間にかお口の中にしこりが出来て、実はがんだったという方も少なくありません。
お口のなかのがんは大きく分けて粘膜からできるがんと唾液腺からできるがんがあります。なかでも粘膜から生じるがんは「扁平上皮癌」と言われ、お口のがんの大多数を占めます。このページでは主に「扁平上皮癌」の診断、治療についてご説明します。

舌がん

すべてのお口のがんの6割を占めます。特に舌の両サイドにできることが多く、初期の頃は口内炎の様な症状が持続したり、痛みを感じないこともあります。がんのまわりには白い斑状の模様を認めることもあり、この白斑からがんが生じることもあります。この白斑は「白板症」といいがんの前の段階“前癌病変”とも言われています。

舌がん

歯肉がん

歯を支えている顎の骨にある硬く動かない粘膜から生じます。口腔がんのなかで2割弱がこの歯肉がんが占めています。このがんも初期の頃は白斑を伴うことが多く、中には扁平苔癬という赤みのある粘膜の状態からがんが生じることもあります。歯周病だと思い込み、歯が抜けた後もなかなか歯茎の状態が良くならない、血が出続けるなどの症状があるときは要注意です。

歯肉がん

頬粘膜がん

両側の頬の柔らかい粘膜から生じるがんです。口腔がんの1割を占めます。舌がんや歯肉がんと同様に最初の頃は白斑や赤みのあるただれたような状態からがんに進行することがあります。歯肉がんで出てきた扁平苔癬も“前癌病変”とされ、長期的な経過観察が必要です。

頬粘膜がん

口唇がん

上唇や下唇にできるがんです。口腔がんのなかでは発症頻度が最も低いがんです。唇の外側の見やすい場所だけではなく、内側の粘膜にできることもあります。見やすい場所のため、手術により形態が変化しやすい場所になります。口腔内には他にも上顎の天井にある「口蓋」という部分や舌と歯茎の間の「口底」という部分にもがんが生じることがあります。

口唇がん

がんは早期発見が出来れば90%以上の確率で治癒が見込めます。手術による根治的な治療が基本となりますが、患者さんの立場に沿った治療方法の提案、決定を行っていくことを心がけています。手術を行って欠損が生じた部分は再建を行い、形態や機能の温存を図り、生活の質の維持、早期退院、社会復帰を目指します。手術や治療後の機能障害、特に嚥下障害や摂食障害に対しては、個別のリハビリメニューを策定し、機能障害改善に必要な装置(特殊な入れ歯や保険適応のインプラント治療)の作成も同時に行っていきます。

当科での診断・治療は、日本口腔外科学会認定の指導医・専門医・認定医、日本癌治療認定医機構 がん治療認定医(口腔外科)を中心に経験豊富なスタッフが担当いたします。小さな異常や不安もお気軽にご相談ください。

2.診断

口腔外科・口腔顎顔面外科における診断体制

顎顔面放射線科、口腔病理解析学分野とともに、画像診断、組織生検を行い、診断の確定、治療方針の決定を行います。診断および治療方針に関しては毎週開催される4科合同の口腔腫瘍カンファレンスにて検討を行い、診断および治療方針の妥当性について綿密に協議を行います。手術・治療に際しては口腔外科・口腔顎顔面外科が協力して行っていきます。

診断体制

通常行われる検査

CT検査、MRI検査、単純X線検査、超音波検査、血液検査、PETCT検査、細胞診検査、組織検査(病理検査)

初めて外来に来られた際は、同日に口腔内外診察、必要な画像検査の予約、血液検査などを行い、次回受診までの間に画像検査による病気の進展範囲の確認を行います。画像の結果を元に、局所麻酔を使用した組織検査(病理検査)を行い診断を確定させます。がんが小さい場合は手術と同時に病理検査を行うこともあります。病状および治療方針の説明がなされた後、治療方針の決定を行い、全身的な病気がある場合は院内内科などを受診していただき、治療の前に全身状態の確認を行います。

口腔がんの治療はがんの進行度をステージ別に分類してその方針の決定します。

がんの進行度ステージ分類

3.治療

口腔外科・口腔顎顔面外科で取り扱う治療(手術・集学的治療等)

口腔外科・口腔顎顔面外科で治療を行う場合、ステージによって治療法が異なります。

ステージ

それぞれの部位における手術治療についてご説明します。
いずれのがんもがんの大きさや頸部のリンパ節転移の有無によって手術方法が異なります。

舌がん 主に舌の部分切除という方法がとられます。切除する領域が全体の三分の一程度であれば、縫い合わせたり、人工の吸収する線維を生体のりで貼り付けたり、腹部からの植皮を行ったりします。がんが小さい場合、術後に発音や咀嚼、飲み込みの機能障害が生じることはほとんどありません。
歯肉がん 顎の部分切除(辺縁切除)や区域切除という方法がとられます。切除した後は傷口を縫い合わせたり、人工の真皮を貼り付けます。必要に応じてチタン合金プレートによる再建を行います。
頬粘膜がん 頬粘膜の部分切除という方法がとられます。切除する領域が広範でなければ、縫い合わせたり、人工の吸収する線維を生体のりで貼り付けたり、腹部からの植皮を行ったりします。がんが小さい場合、術後に発音や咀嚼、飲み込みの機能障害が生じることはほとんどありません。
口唇がん 口唇の部分切除という方法がとられます。口唇は審美的な面で目立つ場所のため、できる限り傷口が目立たないよう手術方法が工夫されます。

StageⅢ、Ⅳで手術が可能な場合は、頸部のリンパ節の郭清や切除範囲が大きくなり、機能障害が生じることがあります。機能障害を抑えるため、他の組織を移植することがあります。
また、必要に応じ、手術中に病理検査を行い、腫瘍が確実に取れているか確認を行います。

<手術後のリハビリ>

手術が終わった後は全身状態の回復を待って、機能障害に対するリハビリを行います。専門の言語聴覚士による発音機能、嚥下機能のトレーニング、病棟でのトレーニングを行い、検査を行いながら機能回復を目指します。毎週木曜日に歯科病棟にて、口腔外科・口腔外科顎顔面外科、補綴科、口腔保健科、歯科衛生士、言語聴覚士がチームとなり術前術後の状態を検査、確認する「嚥下回診」を行なっています。
主な取り組みを示します。
舌は主に発音と飲み込みを担っています。リハビリの他にも、舌の動きを助けるため「舌接触補助床」(写真)という特殊な入れ歯を作成して、発音や飲み込みを行いやすくすることもあります。

左舌がん術後(舌接触補助床を装着)

左舌がん術後(舌接触補助床を装着)

舌接触補助床

舌接触補助床

歯や歯肉は主に咀嚼を担っています。術後、発音や飲み込みの機能に障害が生じることはほとんどありませんが、歯がなくなるため咬み合わせは悪くなることが予想されます。上顎の場合、鼻腔や上顎洞という空間に近く、交通することもあります。その場合、飲み込んだ水分などが鼻に漏れてしまいますので、手術後に特殊な入れ歯を作成し、食事の摂取や飲み込みに水や食事が漏れないようにします。下顎も特殊な義歯や保険が適応となるインプラント治療(写真)を術後に行い、咬み合わせの回復を行います。
術後多くの方がリハビリに取り組んでいただき、術前に近い食べ方、飲み込みができるまで回復することを目指します。

保険適応のインプラント治療

保険適応のインプラント治療

4.薬物治療

口腔外科・口腔顎顔面外科で取り扱う治療(薬物治療)

手術療法が困難な患者さん、手術を希望されない患者さんあるいは手術後の病理検査にて再発や転移のリスクが高いとされた患者さんは抗がん剤による薬物治療を行います。必要に応じて放射線治療を併用します。
頭頸部癌に対して以前より使用され、安定した治療成績を残しているシスプラチンなどの白金製剤、フルオロウラシル、テガフールなどの代謝拮抗薬、パクリタキセルやドセタキセルに代表される植物アルカロイドに加え、近年頭頸部癌で承認された分子標的薬であるセツキシマブ(アービタックス®)、免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブ(オプジーボ®)を使用して治療を行うことがあります。
抗がん剤の適応に関しては院内で承認されたレジメンを用い、全身的な評価を加味して投与方法、投与量を決定します。
化学療法は主に悪心や嘔吐、下痢、口内炎、骨髄抑制、腎機能障害・肝機能障害などの副作用を伴うことがあります。副作用に対しては個々に対応し、副作用が軽減されるよう治療を行います。

5.放射線治療

口腔外科・口腔顎顔面外科で取り扱う治療(放射線療法)

放射線科に依頼し、手術によって得られた病理検査の結果などを参考に、より悪性度が高い患者さんに術後の補助療法として抗がん剤を併用した放射線治療を行います。放射線治療は治療前に治療用CTを撮影した後、照射用の装具を作成し、外からの放射線照射により、必要な領域に必要な量の放射線照射を行います。従来の放射線外照射に強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)が導入される様になり、より照射範囲を限定したい患者さんに用いられるようになっています。
放射線治療の前には必ず口腔内をチェックし、残すことが難しい歯がないか確認を行います。炎症の元となる歯がある場合、治療が終わった後に歯を抜いてしまうと、放射線性の骨髄炎という治りにくい病気になってしまいます。あらかじめ抜歯を行って顎骨骨髄炎を予防します。また、放射線照射が不要な部位に余計な放射線が当たらないように特殊な器具を作成して放射線被曝の軽減を図ることもあります。
放射線治療の主な副作用は口内炎、皮膚炎、骨髄抑制があります。症状に応じて副作用の治療を並行して行っていきます。
また、全身状態が悪く手術が困難な患者さん、手術を希望されない患者さんもいらっしゃいます。その場合、抗がん剤と放射線治療を組み合わせた治療が第一候補となります。粒子線治療(陽子線治療など)に関しては、別途ご相談いただき適応についての判断が必要となります。

6.先進医療、臨床研究、治験

がんの進行度により疼痛の強い方、不安で夜も眠れない方がいらっしゃいます。当院ではがんによる直接的な身体的苦痛だけではなく、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインなど全人的苦痛に対し、早期より当院の緩和ケアチームが介入し、協力して患者さんの苦痛が取り除かれるよう取り組んでいます。
患者さんの希望や全身状態により手術、放射線治療および化学治療が困難になった場合、がんと共存して、現在の生活の質をいかに維持できるかが重要となってきます。生活の質を下げる最も大きな要因である、疼痛の緩和を目的に放射線照射を行ったり、専門の入院施設、在宅医療機関の提案を行います。

先進医療、臨床研究、治験

口腔外科・口腔顎顔面外科でおこなっている高度医療、最新の治療、研究等

発癌や転移のメカニズムを患者さんの血液サンプルを用いて分子レベルで解明する研究を行っています。
前癌病変である白板症を早期に発見するためのうがい液による診断法を開発しています。
手術前後の栄養評価や機能評価を行い、術後のリハビリ、栄養摂取を適切に行い、早期の退院、社会復帰実現を目指す研究を行っています。
粒子線治療(陽子線治療)の適応については当院粒子線科相談の上適否が判断されます。

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