肝臓がん
1.診療体制
消化器外科(Ⅰ)で取り扱っているがん
鹿児島大学病院消化器・乳腺甲状腺外科の肝臓グループでは主に肝がんの手術を担当しています。肝臓にできるがんは、肝炎ウイルス感染や脂肪肝を原因とする原発性肝がん(図1)と、他臓器からの転移による転移性肝がん(図2)に大別され、原発性肝がんの中で一番多いのは肝細胞癌です。20年ほど前は、肝細胞癌の約9割は肝炎ウイルスが原因で、それ以外の原因が1割ほどでしたが、肝炎ウイルスの治療がすすんだことなどから、近年は肝細胞癌のうち肝炎ウイルス関連が約7割、それ以外が3割ほどとなっています。また、他の臓器の癌に対する手術や抗がん剤治療の発達によって、肝臓のみに限局する転移性肝がんの治療機会も増加しています。どちらの疾患でも、手術での完全切除が可能な場合には、肝切除が最良の治療法となります。
肝臓グループは日本肝胆膵外科学会高度技能指導医2人、高度技能専門医1人、スタッフ1人、医員1人でチームを組んで治療に取り組んでおり、年間約50〜60例の肝臓手術を行っています。肝臓の手術は腫瘍の場所や大きさで様々な切除方法がありますが、そのほとんどが高難度手術に分類されます。そのため、県内の各医療機関から多数、当院へご紹介いただき手術を行っています。当院で手術を行った後は、全身状態や肝機能、手術創部の確認のために1-2回当院外来を受診していただき、特に問題なければその後はご紹介いただいた病院で定期的に経過を見ていただきます。
図1
図2
2.診断
消化器外科(Ⅰ)における診断体制
肝がんに対する最良の治療は、がん部分をすべて取りきる肝切除術ですが、手術が施行できるかどうかは腫瘍の性質(数、場所、大きさ)と、患者さんの全身状態や肝機能によって決定します。
肝臓は代替のきかない臓器であり、肝切除術後は残された肝臓で、生きていかなくてはなりません。そのため、肝切除後にも肝機能が十分に保たれるかどうかを慎重に検討しています。当院では、術前に2種類の肝機能評価検査(GSA-肝受容体シンチ、ICG停滞率テスト)を原則全例に施行し、肝機能評価の精度を高めています。それをもとに、肝臓を何%まで切除してよいかを判定しています。また、CT検査やMRI検査などで、患者さんごとに血管走行などを緻密に把握し、最適で安全性の高い術式を計画し、術前カンファレンスで検討しています。
肝臓がんに対する肝切除は、一般に、がんが肝臓にのみ存在し、腫瘍の大きさには特に制限はなく、10cmを超えるような大きなものであっても、切除の適応となり得ます。また、肝臓全体に複数存在するがんの場合でも、切除する範囲を工夫することによって、手術が可能なことがあります。一方、綿密な検査の結果、手術が難しい場合もあります。その際は、当院の肝臓内科や放射線科において、手術以外の治療法(ラジオ波焼灼療法や肝動脈化学塞栓療法など)を検討してもらうなど、他の診療科と連携し治療を行うようにしています。
3.治療
消化器外科(Ⅰ)で取り扱う治療(手術・集学的治療等)
肝臓は重さが約800-1200gと人体の中で最大の臓器です。肝臓の役割には、栄養の代謝や有害物質の解毒排出など様々なものがあり、動脈や静脈などの血管や胆管が迷路のように複雑に張り巡らされています。そのため、不用意に切離すると容易に大出血することから、手術が難しく、外科手術の中でも熟練を要するとされてきました。現在では、手技の発達、手術器具の開発、周術期管理の進歩によって、より安全に高難度の肝臓手術を行うことができるようになってきました。当院での肝切除術の術後短期成績は、2012〜2016年の過去5年間で周術期死亡率は0%(0/268件)と、他の施設に比べても優秀な安全性が得られています。
肝臓手術には従来から行われてきた開腹手術と、小さな傷で手術が可能な腹腔鏡手術があります(図3)。2010年に肝部分切除と肝外側区域が保険適応となり、2016年にはその他の腹腔鏡下肝切除の多くが保険適応となりました。ただし、肝臓の腹腔鏡手術の難易度は高く、適応が限られます。鹿児島大学では2005年より、先進医療として腹腔鏡下肝切除に取り組んでおり、培われてきた技術、経験で安全な腹腔鏡手術を施行しています。開腹での手術でも、術後1~2週間前後くらいで退院可能となるのが一般的です。傷の痛みも、通常は1ヶ月程度で軽減し、社会復帰も可能となります。
図3
先進医療、臨床研究、治験
消化器外科(Ⅰ)でおこなっている高度医療、最新の治療、研究等
- 症例登録システムを用いた腹腔鏡下肝切除術の安全性に関する検討〜前向き多施設共同研究〜
- 術前肝予備能評価におけるアシアロ肝シンチの有用性の研究
- 非ウイルス性肝細胞癌の臨床病理学的および分子生物学的研究
- 肝切除術における予防的抗菌薬投与の短縮化に関する研究