腟がん
1.診療体制
産科・婦人科で取り扱っているがん
腟がんは産婦人科が取り扱う悪性腫瘍の中でも1-2%と稀な疾患です。たとえ腟に病変が存在しても、子宮頸部に及んでいれば子宮頸がん、外陰までの拡がりがあれば外陰がんとして取り扱われます。そのほとんどが扁平上皮癌であり半数以上は70歳以上の高齢者です。子宮頸癌同様にヒトパピローマウイルス(HPV)との関連が指摘されており、腟扁平上皮癌の8割から検出されています。性器出血が主な症状となります。当科では、複数の婦人科腫瘍専門医が診療に携わっており、患者ごとに最適な治療が受けられる様に診療を行なっています。
2.診断
産科・婦人科における診断体制
腫瘍の生検で診断が確定した場合、腫瘍の広がりを視診、内診、触診を行い評価します。加えてステージ(病期)を確定するためにコルポスコピー、直腸鏡、膀胱鏡、X線検査を行います。さらに、CT、MRI、PET/CTの画像診断でリンパ節転移や遠隔転移の評価を行います。
3.治療
産科・婦人科で取り扱う治療(手術・集学的治療等)
稀な腫瘍のため世界的にも治療法に関する質の高い臨床研究が少ないのが現状です。子宮に近い腟上部に存在する早期症例に関しては子宮頸癌同様に手術療法が考慮されます。手術は腫瘍から十分にマージンを確保した腟壁切除を含めた広汎子宮全摘出術及び骨盤リンパ節郭清術を行います。しかし、腟の中部や腟下1/3に存在する腫瘍ではさらに大きく切除が必要となるため、合併症も多くQOL(生活の質)を著しく損なうため放射線療法も考慮されます。
放射線治療は手術時に問題となる排尿機能も温存可能であり、子宮頸癌における扁平上皮癌同様に治療効果も高いことから治療の第一選択となります。現状においては、2期以上の症例が75%を占めさらに高齢者が多いことから総じて放射線治療が選択される場合が多いです。
4.薬物治療
産科・婦人科で取り扱う治療(薬物治療)
化学療法は主に遠隔転移を伴う進行例や再発癌に対して子宮頸がんに準じて行われます。 また、治療効果の上乗せを図るため放射線治療に併用する場合もあります。しかしながら、単独で治癒を得るほどの効果は期待できないのが現状です。腟がんの化学療法に関する質の高い研究は乏しく、世界的に標準治療が確立していないのが現状です。
5.放射線治療
産科・婦人科で取り扱う治療(放射線療法)
腟がんには主として放射線療法が行われ手術に匹敵する効果が得られます。全身状態が良ければ、プラチナ製剤を含む化学療法の併用が考慮されます。放射線治療は主に密封小線源治療が行われます。これは、膣内あるいは子宮内に線源を置いて直接的に腫瘍に照射(腔内照射)するものです。治療成績向上及び放射線障害軽減のための工夫が行われています。全身状態にもよりますが、合併症のある高齢者においても、比較的安全に施行可能であります。
放射線治療専門医と一緒に治療を行います。
6.先進医療、臨床研究、治験
がんの進行に伴って出現する様々な症状を軽減するのが緩和ケアです。治療に伴う不安や疼痛に対して治療開始時より介入を行います。腟がんでの主な再発パターンは原発巣周囲の再発であり、原発巣により引き起こされる症状が問題となるケースが多いです。原発巣のコントロールが難しい場合は疼痛、出血、悪臭などの症状が増強しQOL(生活の質)を下げる原因となります。対応に苦慮する場合もあり、次項目で述べる軟膏などを用いて症状の軽減を図っています。必要時は、院内の緩和ケアチームと協力して治療を行います。
先進医療、臨床研究、治験
産科・婦人科でおこなっている高度医療、最新の治療、研究等
腟がんは症例が少ないため、他のがんのような信頼性のある大きな研究が組めず、治療は子宮頸がんに準じて行われているのが現状です。個々の症例について十分な検討を行い治療しています。
当科では治癒を目指した治療を積極的に行っていますが、時に再発や増悪する場合もあります。腟がんの場合は、時に局所の疼痛、出血や悪臭が問題となります。当院では、世界に先駆けてMohs’ paste(モーズ軟膏)を腫瘍に塗布し、これらの症状の軽減を図る方法を開発し報告しました。臨床で使用し良好な治療効果を得ております。