鹿児島大学病院肝疾患相談センター

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肝臓病について

肝臓の役割

肝臓は右脇腹のあたりに存在する、重さ1000〜1500gの人体最大の臓器で、人間の生命の維持に必要不可欠な臓器です。肝臓の主な役割として以下の3つがあげられます。

  1. ① 代謝:食事からの糖、蛋白質、脂肪を体内で使える形に変えて貯蔵したり、必要な時にエネルギーのもととして供給する。
  2. ② 解毒・排泄:アルコールや薬物、有害物質を分解し無毒化する。
  3. ③ 胆汁の分泌:脂肪の消化吸収を助ける、肝臓で作られた老廃物を流す。

肝臓とウイルス特に栄養の代謝や、アルコール等の解毒・排泄にかかわっているため、生活習慣の影響を大きく受けやすい臓器でもあります。このように重要な役割を担っている肝臓ですが、予備能力・再生能力が高い臓器であり、その機能が障害されても症状として自覚できないことが多いです。そのため、気がつかないうちに病状が進行してしまい、“自覚症状(倦怠感や黄疸、腹部膨満感など)”を感じて病院を受診する頃には病気がかなり進行しているケースが少なくありません。特に最近では、従来日本において原因疾患の多くを占めていたウイルス性(B型、C型肝炎)の肝臓病が減少し、かわりに飲酒過多によるアルコール性の肝臓病や、脂肪肝といった肥満や生活習慣病(糖尿病、脂質異常、高血圧など)を原因とした肝臓病の患者さんが増えてきています。

肝臓病を疑うべき症状

肝臓は“沈黙の臓器”といわれるように、慢性肝炎のほとんどの場合は無症状です。早期に肝臓病を発見するためには健康診断などの際の血液検査で肝機能障害を指摘された場合には、しっかりとかかりつけの先生に相談して、その原因を調べてもらう必要があります。血液検査でAST[GOT]、ALT[GPT]、γ-GTPといった項目が異常値だった際には、肝臓病の可能性を疑って下さい。

肝臓とウイルス慢性肝炎、肝硬変の際にみられる症状として、全身の倦怠感や食欲不振、疲労などの症状がみられることがあります。また、肝臓病が進行すると黄疸(目や皮膚が黄色くなる)や、腹部膨満感(腹水が貯留することによる)、下腿浮腫、易出血(出血しやすくなる)、皮膚掻痒感といった症状が出現することもあります。その他、肝硬変の患者さんでは、食道や胃の静脈が瘤のように腫れる“食道静脈瘤”や“胃静脈瘤”が形成され、破裂すると大量出血をおこす可能性もあります。また、体内で産生されたアンモニアなどの有害物質が処理できなくなることで“肝性脳症”といった意識障害を発症することもあります。

肝硬変になると肝癌を合併するリスクが非常に高くなります。肝臓病は自覚症状がないまま、慢性肝炎から肝硬変、肝癌へと進行することが多いです。血液検査で肝機能障害を指摘されたり、肝臓病を疑う症状を自覚した際には、かかりつけの先生に相談してみて下さい。

B型肝炎

ピアスの穴あけ B型肝炎ウイルスに感染した状態です。肝臓の状態によって、キャリア、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変と診断されます。B型肝炎ウイルスは主に、血液など体液を介して感染します。感染経路として、出産時に感染する母子感染である垂直感染と、性行為や不衛生な医療器具(注射針など)、入れ墨やピアスの穴あけなどによる感染である水平感染などがあげられます。最近では、性行為やピアス、タトゥーによる若者での水平感染が増加しています。

B型肝炎は、血液検査でHBs抗原の有無を調べることで診断が可能です。HBs抗原が陽性であれば、肝機能検査(AST、ALT)や腹部エコーなどの画像検査を行い、キャリア、慢性肝炎、肝硬変のどの状態にあるのか評価し、治療の必要性を判断します。

B型肝炎の治療として、抗ウイルス療法を行います。インターフェロン(注射)による治療と、核酸アナログ製剤(内服薬)による治療があり、年齢や肝臓の状態によって選択されます。以前は核酸アナログ製剤も長期服用で薬剤耐性といって薬が効かなくなる患者さんが一定数出てしまうことが問題となっていましたが、最近の薬剤では長期間安心して服用ができるようになっています。治療は日進月歩ですので、以前治療が不要と言われた患者様でも、長らく精密検査が行われていないようでしたら、一度、かかりつけの先生に治療の要否について相談してみて下さい。また、肝炎ウイルス検査は保健所などで無料検査も行っていますので、一度も検査を受けたことがない方は受検を考えてみて下さい。

C型肝炎

C型肝炎ウイルスに感染した状態です。C型肝炎ウイルスに感染すると、約30%は半年以内にウイルスが体内から自然に排除されますが、約70%の方では感染が持続して慢性肝炎に移行するとされています。C型肝炎は国内最大の感染症として慢性肝炎の原因の多くを占め、感染者は本邦に約100〜150万人と推定されています。

C型慢性肝炎では、無症状のままゆっくりと肝臓の線維化(肝臓が硬くなること)が進行し、感染してから30〜40年で肝硬変、肝癌に進行すると言われています。C型肝炎ウイルスは、血液や体液を介して感染し、以前は輸血や血液製剤の使用で感染するケースが多かったのですが、検査体制の整備・精度向上に伴い輸血等で感染することはほとんど無くなりました。一方、最近では、注射器の使い回し(違法薬剤の使用など)や、ウイルスに汚染された器具の使用(入れ墨、ピアスの穴あけ、鍼治療、剃刀の供用など)による新規感染が増加しています。

C型肝炎は、血液検査でHCV抗体とHCV-RNA検査を行うことで診断が可能です。HCV抗体が陽性でも、持続感染(現在も感染している)と既往感染(過去に感染したが、現在は体内にウイルスはいない)の2通りが考えられますので、HCV抗体が陽性と判明した際には消化器内科や肝臓内科を受診して精密検査を受けるようにして下さい。

内服薬C型肝炎の治療として、以前はインターフェロン(注射)による治療が主でしたが、2014年以降はインターフェロンフリー治療といって、内服薬だけで治療が可能となっています。最新の治療では、肝臓の状態や過去の治療歴にもよりますが、8〜12週間の内服薬の服用で95%以上の患者さんで体内からのC型肝炎ウイルスの排除が可能となっています。副作用もほとんどなく、従来のインターフェロン治療が受けられなかった患者さんでも高い確率で治癒が得られる時代となっています。治療費についても、肝炎医療費助成制度も利用が可能となっていますので、C型肝炎が未治療のままとなっている患者さんがいましたら、是非、治療についてかかりつけの先生に相談してみてください。また、肝炎ウイルス検査は保健所などで無料検査も行っていますので、一度も検査を受けたことがない方は受検を考えてみて下さい。

生活習慣に関連する肝臓病(脂肪肝)について

生活習慣(暴飲、暴食、運動不足など)が原因となる肝臓病として、“脂肪肝”があげられます。脂肪肝とは、肝臓に中性脂肪が多くたまった状態です。脂肪肝には過量の飲酒が原因の”アルコール性脂肪肝” と、ほとんどアルコールを飲まない人におこる”非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD:ナッフルド)”があります。NAFLDは肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧症を伴うことが多く、メタボリック症候群の人で合併が多いです。ほとんどが無症状ですが、放置すると肝硬変や肝がんに進行することがあり、30代以降の男性や閉経後の女性で増える傾向にあります。最近の肝硬変、肝癌の傾向として、ウイルス性(B型、C型肝炎)によるものが減少し、生活習慣に関連する肝臓病(アルコール、非アルコール)が原因の患者さんが増加していることが特徴としてあげられます。

アルコール性、非アルコール性を決める飲酒量ですが、1日あたり純エタノール量が男性で30g以下、女性で20g以下 (男性でビール750ml、日本酒1合半、ワイングラス2杯半 (女性ではその2/3))の飲酒量の人の脂肪肝がNAFLDです。最近では、脂肪肝をアルコール性と非アルコール性で分類せずに、包括的な疾患概念として“SLD(Steatotic liver disease)”という名称を用いるようになっています。

脂肪肝は腹部エコー検査で診断され、肝臓が通常より白く見えます。血液検査ではAST (GOT)、ALT (GOT)、γGTPなどの肝機能検査に異常があることが多いです。脂肪肝は血液検査だけでは診断がつきませんので、検診では是非、腹部エコー検査も受けましょう。また、生活習慣病を複数有している患者さんで肝機能障害があるにもかかわらず、腹部エコー検査を受けたことがない方は、かかりつけの先生に相談して腹部エコー検査での肝臓の評価を計画してもらって下さい。

高カロリーの食事残念ながら“脂肪肝”の治療薬は無く、治療の原則は食事、運動で生活習慣病を改善することです。菓子類やファストフードなどの高脂肪食や、過剰な炭水化物 (糖質)、蛋白質摂取も脂肪肝の原因となります。糖質、特に「果糖」のとりすぎには注意が必要で、炭酸飲料や野菜ジュース、調味料などに広く使われています。自身に適正なカロリーなど不明な点がある場合は、栄養士による栄養指導を受けることも効果的です。

また、アルコール性肝障害についても原則、“禁酒”が治療となります。コロナ禍でアルコール性の肝臓病も増加しています。特にアルコール依存が疑われる状況では、自身の意志のみでは断酒が困難なことも多いです。精神科の医師や多職種による治療介入が効果的なこともありますので、アルコール問題に関する専門医療機関を早期に受診することも推奨されます。

自己免疫性の肝臓病

原因は不明ですが、本来、自分の身を守る役割をはたす免疫が、自身の肝臓(肝細胞や胆管)を攻撃することで発症する病気が自己免疫性の肝臓病です。肝細胞が攻撃対象となることで発症する病気が“自己免疫性肝炎(AIH)”で、胆管が破壊・障害されることで発症する病気が“原発性胆汁性胆管炎(PBC)”や“原発性硬化性胆管炎(PSC)”です。AIHやPBCは中年以降の女性に多く、50〜60歳代が発症の中心となります。一方、PSCは20歳代と60歳代に発症のピークがあり、発症年齢によって合併症が異なります。

これらの疾患は、通常の血液検査の項目では診断が困難で、消化器病や肝臓病の専門の先生による診察が必要となります。原因不明の肝機能障害が持続し、自己免疫性肝疾患が疑われる際には、専門医療機関を受診しての精密検査をお勧めします。

注射器治療には、AIHの場合には、自己免疫反応を抑える目的で免疫抑制剤(副腎皮質ステロイド)が用いられます。PBCにはウルソデオキシコール酸が用いられますが、AIHやPBCは病気が重複することも多く、診断や治療薬決定のために、肝生検(肝臓に針を刺して、組織を採取し、顕微鏡で診断をつける)が必要となることもあります。

肝癌

肝細胞癌は肝臓にできる悪性腫瘍で、2021年の部位別がん死亡数では、男性で5位(15913人)、女性で7位(8189人)となっています。肝癌は慢性肝炎、肝硬変と肝臓の線維化が進行すると発症リスクも高くなります。従来は、肝炎ウイルス(B型、C型)に関連する肝癌が約9割を占めていましたが、最近では、アルコールや非アルコール性のいわゆる非ウイルス肝炎による肝臓病からの肝癌が増加しており、最新の調査では肝癌を新規に発症する患者さんの2人に1人が、肝炎ウイルス以外の肝疾患からの発癌になっています。

肝癌も進行するまでは自覚症状はあまりなく、早期に発見するためには定期的な血液検査や腹部エコーやCTなどの画像検査を受ける必要があります。

肝細胞癌の治療は、手術やラジオ波焼灼術(RFA)、カテーテル治療(肝動脈化学塞栓療法)のほか、従来の抗癌剤による化学療法のほか、最近では分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤による治療も可能になってきており、治療薬剤の選択肢が広がっています。また、通常の放射線治療のほか、条件を満たせば陽子線治療も公的医療保険の適応となっています。

飲酒肝癌は早期の状態で発見することが、より根治性の高い治療を選択できることにつながります。B型肝炎やC型肝炎が陽性の患者さんでは特に、肝癌合併の危険性が高まりますので、是非とも定期的な画像検査を受けるようにして下さい。また、最近増加している、ウイルス肝炎以外の患者さんからの肝癌を早期に発見するためにも、長期間に渡り血液検査で肝機能障害を指摘されている方や、糖尿病のほか複数の生活習慣病を有している方、飲酒量が多い方、肝臓が硬くなっていると指摘された方など、肝癌リスクの高い患者さんは、かかりつけの先生とも相談して、定期的な画像検査の受検をお勧めします。

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