鹿児島大学病院からのお知らせ

婦人科で世界初の「ヒノトリ」手術を行いました!

 鹿児島大学病院では、2022年12月2日以降、国産初の手術支援ロボット「ヒノトリ」を用いた世界初の婦人科手術が種々行われ、1月12日に記者発表いたしました(図1)。
 本院では、2017年から米国製の手術支援ロボット「ダヴィンチ」が稼働していましたが、2022年11月に、「ヒノトリ」を新たに導入し、12月から婦人科領域への保険適用が開始されたことに伴い、1)12月2日に世界初の婦人科手術、2)12月26日に世界初のセンチネルリンパ節生検を併用した子宮体がん手術、3)2023年1月18日に世界初の仙骨腟固定術(婦人科領域)を行いました。
 3つの手術を執刀した小林裕明 産科婦人科教授は、婦人科にヒノトリ手術を安全に普及させるための初代指導者としてヒノトリ製造会社のメディカロイド社から依頼を受け、共同研究の一環として今回、当院にヒノトリが導入されました。2022年10月19日に世界第1号のヒノトリ婦人科術者認定を受け、その後12月には新たにヒノトリ手術を始める施設からの婦人科医師が訪れる世界初の見学手術認定執刀者となりました(図2)。
 2022年12月2日に世界初のヒノトリ婦人科手術(同日、神戸大学も初症例)を無事に終えた後、12月26日に子宮体がん手術に世界で初めてヒノトリで併用したセンチネルリンパ節生検は、当院産科婦人科がかねてより取り組んできた臨床試験です。(図3左)のように子宮体がん病巣から最初にリンパ節転移をするリンパ節を“センチネル(見張り)リンパ節”と言いますが、これを手術中に見つけて摘出(生検)し、顕微鏡検査で転移があれば通常通り骨盤リンパ節を全部摘出(郭清)しますが、転移がなければ一切、他のリンパ節を取りません。郭清すると2割前後の患者さんに下肢リンパ浮腫(図3右)が生じ、これは女性患者さんにとっては大変つらい合併症となります。実際、ロボット手術が適用される比較的初期の体がん患者さんはほとんどリンパ節転移はありませんので、センチネルリンパ節生検で郭清を回避できると、下肢のリンパ浮腫はほぼ生じません。小林教授は国内で初めてこのセンチネルリンパ節生検をロボット手術に導入した婦人科医で、県外からも多くの患者さんがこの臨床試験を希望して来院されます。
 2023年1月18日には骨盤臓器脱に対して、婦人科領域では世界初のヒノトリによる仙骨腟固定術が行われました。骨盤臓器脱とは骨盤内臓器を支える筋や腱、靭帯が加齢や出産を契機に弱くなり、腟内に骨盤臓器(子宮、膀胱、直腸など)が下降、脱出する疾患です(図4上段左)。従来の仙骨腟固定術は子宮を部分摘出後、短冊状のメッシュを残存させた子宮頸部に縫合し、対側を仙骨前面に固定して骨盤臓器が下垂しないように吊り上げる手術です(図4上段右)。しかし人工物であるメッシュを使用することによるメッシュのびらん、腟内への露出、それらに起因する感染や腟の痛みなどの合併症がしばしば問題となります。当院産科婦人科では人工メッシュの代わりに子宮を支持している患者さん自身の組織(円靱帯:図4下段左)を加工して用いる仙骨腟固定術の臨床試験を行っており、良好な治療成績を得ています(図4下段右)。この自家組織を用いた感染トラブルの少ない新たなロボット仙骨腟固定術式は世界に類を見ないもので、通常はメッシュが使えない糖尿病など感染を起こしやすい患者さんも、この臨床試験への参加を希望して来院されます。
 産科婦人科学教室は現在、ダヴィンチの資格認定医を15名、hinotoriの資格認定医を5名輩出する国内有数のロボット手術のメッカで、他大学からも多くの国内留学者、手術見学者が訪れています。小林教授は「私たちは保険適用外ではありますが、子宮頸がん患者に将来の妊娠を可能にする妊孕性温存手術や進行子宮体がんに対する大きな手術を小さな傷跡で済ませるロボット手術にも取り組んでいます。今回の2台目ロボット導入に伴い、当病院ではロボット手術センターを他診療科とともに設立しました。これにより今まで以上に、県民の皆様を“体に優しい安全なロボット手術”にご案内するだけでなく、高度かつ先進的なロボット手術も提供できるように努力してまいります。」と述べました。