鹿児島大学病院小児科の西川 拓朗准教授、岡本 康裕教授らは、2022年8月から鹿児島県で実施されている「重症複合免疫不全症の拡大新生児マススクリーニング検査」にて、県内で初めて無症状の男児を重症複合免疫不全症(SCID)と診断し、本院で造血幹細胞移植(臍帯血移植)を行いました。移植を受けた男児の経過は良好で、2023年10月27日(金)に退院しました。
本院小児科では、重症複合免疫不全症(SCID)の現在唯一の根治療法である造血幹細胞移植まで行っています。
本検査について広く知っていただき、一人でも多くの新生児の早期診断、治療を実現できることを期待しています。
【新生児マススクリーニング検査とは】
放置すると命に関わったり、障害を残したりするような先天性の疾患を、症状が出現する前に発見・診断して、治療することを目的とした検査です。
現在、鹿児島県では20疾患が公的新生児マススクリーニングの対象疾患に指定されています。
今回の“SCID”は、この公的新生児マススクリーニング検査の対象疾患には含まれず、2022年8月から追加で開始された公費外の拡大新生児マススクリーニング検査の対象疾患に該当します。拡大新生児マススクリーニング検査では、SCID以外にも脊髄性筋萎縮症、ファブリー病など7疾患も対象となります(図1)。
【重症複合免疫不全症(SCID)とは】
生まれつきTリンパ球やBリンパ球といった免疫細胞が作られず、身体を守る免疫の働きが弱いため、ささいな感染症でも重症化する可能性がある疾患です。重度の免疫不全症の場合、根治的な治療法である造血細胞移植を行わなければ、生後1歳を超えた生存が難しいため、早期の診断・治療が必要です。
また、2020年から定期接種化されたロタウイルスワクチン接種により、重篤な胃腸炎症状を呈し、時に致死的な経過をとる場合があることから、接種前の診断が重要となります。
【患児の経過】
公的マススクリーニング検査と同様の乾燥ろ紙血を用いた、拡大新生児マススクリーニング検査で、TREC*が0コピー/105 cells (基準値 565以上 copies/105 cells)ということが判明し、日齢11から本院小児科に入院し精密検査を行いました。同日の血液検査でTリンパ球とNK細胞が欠損し、胸部エックス線では胸腺の欠損を認めました。遺伝子解析でIL2RG遺伝子変異が認められたことから、日齢40にIL2RG-SCIDと確定診断しました。この結果、県内で初めて新生児マススクリーニング検査により、無症状の新生児をSCIDとして早期診断することができました。
患児は、入院を継続し、感染管理と造血幹細胞移植の準備をすすめ、生後3か月時にブスルファンとフルダラビンによる移植前処置後に、臍帯血移植が行われました(図2)。
重篤な合併症を認めることなく、ドナー由来のTリンパ球、NK細胞の増加が確認されました。臍帯血移植から4か月経過し、退院となりました。
*TREC(T-cell receptor excision circle):
Tリンパ球が新しく作られる際に産生される環状DNA。世界中で、このTRECを測定する新生児マススクリーニング検査が行われています。
鹿児島県で行われている拡大新生児マススクリーニング検査の詳細は下記をご覧ください。https://kpchc.or.jp/checkup/congenital