難治性腸疾患支援センター
難治性腸疾患支援センターの紹介
センター名称:鹿児島大学病院難治性腸疾患支援センター
Supportive and Advanced care center for Intractable intestinal diseases in Kagoshima
(略称:SAIKO(さぁ、行こう!))
難治性腸疾患支援センター設立のご挨拶
鹿児島大学病院
難治性腸疾患支援センター長
家入里志
令和5年5月、鹿児島大学病院に難治性腸疾患支援センターが開設され、全国の大学病院としてはこのような腸管リハビリテーションを支援する組織としては大阪大学と慶応大学についで設置されることになりました。
難治性腸疾患とは、成人では潰瘍性大腸炎やクローン病などに代表される炎症性腸疾患、あるいは種々の原因疾患により大量の腸管切除を余儀なくされた短腸症の患者さんが対象となります。また小児ではヒルシュスプルング病やヒルシュスプルング病類縁疾患に代表される腸管運動障害、そして中腸軸捻転や壊死性腸炎などにより短腸症となった患者さんが対象となります。
炎症性腸疾患に対しては生物学的製剤の発達により、薬物療法が奏功するようになりましたが、症状は消長を繰り返すため長期にわたる治療や管理が必要になります。また腸管運動障害や短腸症の患者さんは、経口摂取により十分な栄養摂取や水分補給ができないことが多く、静脈栄養に依存することになります。重症の患者さんには小腸移植をはじめとする臓器移植も治療の選択肢となりますが、治療法を問わず最終的に腸管の機能を回復し、在宅への移行や社会復帰を目指すことになります。このような難治性腸疾患は手術や薬物治療だけで治癒が得られないことが多く、その場合は医師だけでなく看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、理学療法士などの多職種の医療従事者による継続的な支援が必要となってきます。
今回設置された難治性腸疾患支援センターの英語表記をSupportive and Advanced care center for Intractable intestinal diseases in KagOshima (SAIKO;さぁ、行こう!)といたしました。鹿児島大学病院から難治性腸疾患に対して最高の治療と支援を提供し、患者さんとともに前に進む”さぁ、行こう!“という意味を込めています。
原疾患や年齢、地域にかかわらず、難治性腸疾患に関して広くご相談いただけますと幸いです。皆様のご支援・ご協力を何卒よろしくお願いいたします。
難治性腸疾患とは
#1.炎症性腸疾患とは
炎症性腸疾患とは、自身の免疫細胞が暴走し、腸に炎症を起こす病気です。主に潰瘍性大腸炎とクローン病の2種類があり、慢性的な下痢や血便、腹痛などの症状を伴います。両疾患とも比較的若い方に発症しやすく、患者数が年々増加傾向にあります。発症すると長期間の治療が必要となりますが、 最近では様々なお薬が使用可能となり、症状をコントロールできる患者さんが多くなってきました。
潰瘍性大腸炎:潰瘍性大腸炎は主に大腸に炎症を起こす疾患で、血便、下痢や腹痛などの症状が慢性的に続くことが特徴です。病変範囲や重症度は患者さんごとに異なっているため、便に少し血が付着するくらいの方から、1日に20回以上の下痢、血便と貧血や腹痛、発熱を伴う方までさまざまです。診断には大腸の内視鏡検査を行い、炎症の状態や範囲を調べます。なお、内視鏡検査のときに組織を採取して顕微鏡で調べる病理検査を同時に行うこともあります。治療法には飲み薬や点滴・皮下注射の薬など様々あり、多くの患者さんでは適切な治療を行えば症状は改善します。ただし、治療薬が効きにくい、あるいは効かない方や大腸癌を合併される方もいらっしゃり、そのような方では手術が必要な場合もあります。
クローン病:クローン病は口から肛門までの全消化管に炎症をきたしうる疾患で、下痢・腹痛などの症状が多く、発熱や体重減少もしばしばみられます。また特にクローン病は、成長期である小中学生にも発症することもあるため、成長障害を引き起こすこともあります。腸に深い潰瘍を形成するため、腸に変形をきたしやすく、肛門部では痔瘻ができることがあります。内視鏡検査、X線検査、バルーン内視鏡やカプセル型の内視鏡といった特殊な小腸検査で診断を行います。その他、膿瘍など合併症を疑う場合はCT検査やMRI検査を行うことがあります。治療法には飲み薬や点滴・皮下注射の薬など様々ありますが、食事療法も大事です。腸の変形や痔瘻ができた場合に手術が必要な方もいらっしゃいます。
超早期発症型炎症性腸疾患:6歳までに診断される炎症性腸疾患を超早期発症型炎症性腸疾患(VEO-IBD: very early onset-inflammatory bowel disease)と定義されます。潰瘍性大腸炎やクローン病の診断基準にあてはまらない例、治療に抵抗性の経過をたどる症例が少なくありません。また、発症に免疫に関する遺伝子の異常が関与していることがあり(monogenic-IBDと呼ばれ、2歳未満発症では約50%)、その場合は原発性免疫不全症とも診断されます。2014年の海外(カナダ、オンタリオ州)のデータですが小児炎症性腸疾患の発生頻度59.9人/10万人に対し、VEO-IBDの発生は3.4人/10万人と報告があり、稀な疾患ですが重症度はより高いといわれ、日本でも年々増加傾向にあります。
#2.短腸症候群とは
短腸症候群とは、正常な腸管を喪失したことにより十分な水分、栄養分を吸収できない状態のことをいいます。一般に70%以上の腸管を喪失した状態(残存小腸がもとの30%以下の状態)が短腸症(症候群)と呼ばれます。
・早期産児では 残存小腸が 50cm以下
・満期産児では 残存小腸が 75cm以下
・1歳児以上の小児では 残存小腸が100cm以下
・成人では 残存小腸が150cm以下
の状況が短腸に相当します。
小児では壊死性腸炎や中腸軸捻転、小腸閉鎖などが主な原因となっています。成人では、炎症性腸疾患や虚血性腸炎、複数回の手術による大量腸管切除、外傷などが原因として一般的です。歴史的に、4分の1の患者さんは経過中に重篤な肝障害を生じ、多臓器不全で亡くなっていました。また、中心静脈栄養カテーテル関連血流感染による敗血症も命にかかわる合併症になります。病状に応じた適切な支援が必要な疾患です(Muto M, Kaji T, Onishi S, Yano K, Yamada W, Ieiri S. Surg Today 52(1):12-21, 2022.)。
図;短腸症の病状と求められる支援の概要
#3.先天性腸管蠕動不全症とは
先天性腸管蠕動不全症(腸管運動機能不全)は、腸の長さがあるにもかかわらず、腸の運動機能に異常があるため十分な水分、栄養分を吸収できない状態です。腹部膨満、嘔気嘔吐、腹痛などが主な症状です。代表的な難治疾患は、指定難病に位置付けられています。慢性特発性腸閉塞症(Chronic Idiopathic Intestinal Pseudo-Obstruction; CIIP)、腸管神経節細胞僅少症(Isolated Hypoganglionosis)、巨大膀胱短小腸結腸腸管蠕動不全症(Megacystis Microcolon Intestinal Hypoperistalsis Syndrome;MMIHS)などが挙げられます。また、ヒルシュスプルング病の中の広範囲腸管無神経節症(Extensive aganglionosis)も長期間の中心静脈栄養支援を必要とする代表疾患です。蠕動不全腸管は拡張して腸管内容のうっ滞を生じます。拡張してうすく引き伸ばされた腸管はそのバリア機能が低下していますので、腸炎を発症すると腸内細菌の体内侵入による重篤な敗血症が起こり得ます。適切な治療が不可欠な病気です。
上記以外にも、種々の難治性腸疾患があります。腸管吸収機能不全症とまとめられる一連の病気では、
腸管粘膜の機能異常により、難治性の下痢を生じ十分な水分、栄養分を吸収できない状態が続きます。この病気も長期間の中心静脈栄養支援を必要とします。
当センターは、新生児期から乳幼児、学童期、思春期、青年期、成人に至るまでまで幅広い年齢の腸疾患患者さんたちが、日常生活の質(Quality of Life(QOL))の向上が得られるよう、総合的な診療支援を目指します。
難治性腸疾患診療実績
#1.炎症性腸疾患支援部門
消化器内科では、これまで約500例の炎症性腸疾患の治療歴があり、現在も250名以上の方が通院されています。さらに、他医療機関から紹介される新規患者さんも年々増加しています(図)。大学病院に通院中の患者さんの特徴として、60%以上の方が難治例のため専門的な治療を実施しております。また、病診・病病連携を積極的に取り入れており、長期的に症状が落ち着いた方や、遠方の方は、地域の医療機関で治療を継続して頂いております。
図:鹿児島大学病院における新規炎症性腸疾患患者数の推移
IBD=Inflammatory Bowel Disease; 炎症性腸疾患
小児科では、特に小児期に発症する炎症性腸疾患患者様を担当しています。2022年度の診療実績は、
潰瘍性大腸炎3例、クローン病5例、超早期発症型炎症性腸疾患4例、骨髄異形成症候群関連炎症性腸疾患1例でした。年々患者数の増加と患者層の若年化が進んできています。
#2.短腸症症候群・先天性腸管蠕動不全症(腸管不全症)支援部門
これまで19名の短腸症候群患者様、14名の腸管蠕動障害患者様の診療サポートを行ってまいりました。腸管不全症は治療が難しい病気で、生命予後を改善するための新たな治療・支援策の開発が望まれる状況ですが、近年は腸疾患に関連する肝障害/肝不全や中心静脈カテーテル感染敗血症などの命に係わる重篤な合併症の発症はなくなりました。ご自分の腸管機能が十分に回復された短腸症の6名、腸管蠕動障害疾患の2名の患者様は、現在、中心静脈栄養を離脱しカテーテルのない状態で生活をされています。
図:鹿児島大学小児外科における腸管不全症例のまとめ
私たちは、
1.栄養学・薬学・外科学的治療を通じて、患者様の腸管機能の回復を導くこと
2.患者様ご家族とコミュニティーを巻き込んだ継続的なケア、支援体制を構築すること
3.患者様QOLおよびご家族・介護者のQOL向上をはかること
4.適切な成長・発達を担保するための助言アドバイスを提供すること
5.中心静脈カテーテル感染の回避とアクセスルート温存のため教育、そのフォローを行うこと
6.不適当な代謝状況の改善をはかること
7.腸疾患に起因する肝障害の進行を制御すること
8.腸管や肝臓、全身状態などの病状に応じ適切に移植医療への橋渡しを行うこと
の8つをポイントに、多職種の知恵を凝集させて、日々患者様の支援に取り組んでおります。
図:多職種による腸管不全患者様支援の具体例
難治性腸疾患支援センター組織概要
1)組織
当センターは以下のメンバーで組織構成しています。
センター長、副センター長のもとに、関連診療科教員、看護師、管理栄養士、薬剤師、理学・作業療法、言語聴覚士、臨床心理士、医療ソーシャルワーカー、医務課職員
難治性腸疾患患者様のご相談をうけ、多職種チームにより個別支援策を立案し実践いたします。また、
患者様の在宅支援には、ご紹介先の先生方、地域の訪問診療担当の先生方、各地域の訪問看護ステーションスタッフの方々、調剤薬局スタッフの方々などにもチームに入って頂き、総合的な医療支援を図っております。
2)業務
多職種介入により次に掲げる業務を専門的・包括的に実践することを目的としています。
(1) 炎症性腸疾患ならびに腸管不全に係る診療・教育・研究に関すること。
(2) その他高度先進治療を要する難治性腸疾患医療に関すること。
当センターでは、実際に支援を担当するスタッフ間で個人情報には十分な配慮を講じたうえで患者様の支援方針や病状等に関する情報を共有し、多職種介入支援を実践してまいります。
患者様、患者ご家族の皆様、ご紹介いただく先生方へ
当センターは以下の体制で外来診療窓口を設けております。他の医療機関から地域医療連携室を通してご予約のうえ、ご来院ください。初診の際は、紹介状(診療情報提供書)をお持ちいただきますようお願いいいたします。
当センターでは以下のような患者さまを中心として、多職種支援を実践いたします。
①すべての難治性炎症性腸疾患の患者様
②年齢相応の腸管長のうち、残存腸管が25%に満たない状態(短腸症候群)の患者様
③腸管切除または喪失後 3か月以上、静脈栄養を必要としている患者様
④腸管の消化吸収機能が不十分で、3か月以上 静脈栄養を必要としている患者様
また、エキスパートオピニオンのご要望にも対応させて頂きますので、どうぞお気軽にご相談ください。
・16歳未満の炎症性腸疾患診療に関するお問い合わせ/セカンドオピニオン
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 小児科学分野
https://pediatricskagoshima.jp/contact/
・16歳以上の炎症性腸疾患診療に関するお問い合わせ/セカンドオピニオン
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 消化器疾患・生活習慣病学分野
ninai@m2.kufm.kagoshima-u.ac.jp
・腸管不全(短腸症、腸管蠕動不全症、在宅静脈栄養管理)に関するお問い合わせ/セカンドオピニオン
鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系 小児外科学分野
pedsurg@m3.kufm.kagoshima-u.ac.jp
リンク
日本消化器病学会ガイドライン 患者さんと家族へのガイド- 炎症性腸疾患(IBD)- https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/ibd.html
難病情報センター 潰瘍性大腸炎
https://www.nanbyou.or.jp/entry/62
難病情報センター クローン病
https://www.nanbyou.or.jp/entry/81
・日本小児IBD研究会:ホームページ
http://pedibd.kenkyuukai.jp/
・日本免疫不全・自己炎症学会:ホームページ
https://jsiad.org/
・小児慢性特定疾病情報センター 短腸症
https://www.shouman.jp/disease/details/12_13_037/
・難病情報センター 慢性特発性偽性腸閉塞症
https://www.nanbyou.or.jp/entry/3961
・難病情報センター 腸管神経節細胞僅少症
https://www.nanbyou.or.jp/entry/3951
・難病情報センター 巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4065
・難病情報センター ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4700
・ヒルシュスプルング病類縁疾患診療ガイドライン:Mindsガイドラインライブラリ
https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0352/G0001048
・日本腸管リハビリテーション・小腸移植研究会ホームページ
http://www.pedsurg.med.osaka-u.ac.jp/jirta/
・臓器移植Q&A 小腸:一般社団法人 日本移植学会ホームページ
http://www.asas.or.jp/jst/general/qa/small_intestine/qa2.php